ガエル・ファイユ「ちいさな国で」書評 人は、なぜ、争うのか
評者: 佐倉統
/ 朝⽇新聞掲載:2017年07月30日
ちいさな国で
著者:ガエル・ファイユ
出版社:早川書房
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784152096913
発売⽇: 2017/06/08
サイズ: 19cm/255p
ちいさな国で [著]ガエル・ファイユ
人は、なぜ、争うのだろう。なぜ、憎み合うのだろう。誰も幸せにならないのに。そんなことはみんなわかっているのに。
著者はフランスの詩人、ラッパー。ブルンジで生まれ育ち、フツ族とツチ族の民族抗争を逃れてパリに移住した。この物語は、著者のアイデンティティを重ねた主人公の一人称で語られる。
フランス人の父とルワンダ出身の母。めぐまれた日常。明るくやんちゃで、ちょっとほろ苦い、少年期の思い出。
だが、激動は静かに、ひたひたと迫ってくる。一見穏やかな日々の下で「仄(ほの)暗い地下の力が間断なく働き、暴力と破壊」の圧力が溜(た)まっていく。抑圧は恨みを膨らませ、恨みはさらなる憎しみを解き放つ。「ぼくはもう、どこにも住んではいない」という主人公のモノローグが、胸を打つ。
繊細な心理描写と心地よいテンポ。読者の心臓は鷲掴(わしづか)みにされる。ガエル・ファイユ、ただものではない。