「牛車で行こう!―平安貴族と乗り物文化」書評 平安時代には高級車
評者: 宮田珠己
/ 朝⽇新聞掲載:2017年08月27日

牛車で行こう! 平安貴族と乗り物文化
著者:京樂 真帆子
出版社:吉川弘文館
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784642083188
発売⽇: 2017/07/06
サイズ: 21cm/164p
牛車で行こう!―平安貴族と乗り物文化 [著]京樂真帆子
牛車は、平安貴族の乗り物である。ぎっしゃと読む。
なぜ牛だったのか。
乗るなら馬車のほうが速いのでは?と思ってしまうが、本書によれば、牛車は乗り手が一定以上の身分であることを示すもので、それに乗っていること自体が重要だったという。急ぐときは男性ならやはり馬に乗ったようだ。
牛の車は、今でも物の運搬に使っている国があったり、朝鮮半島では囚人の護送に使っていたそうだが、どういうわけか平安朝では高級車だった。身分によって乗れる車種が異なり、あえてランクの低い車に乗って身を隠したり、同車(同乗)したり貸し借りすることで政治的に利用されたりもしたらしい。
本書には牛車の車種や利用作法だけでなく、そうした知略や駆け引きについても紹介されていて、当時のありようがよくわかる。
室町期までにはすっかり廃れてしまったそうだが、言われてみれば奇妙な文化だ。気になる。