いつか見たテレビ番組を思い出す。北海道の「旧白滝駅」と呼ばれる駅の物語だ。利用者がまれなため廃止されることが決まったその無人駅は、1人の女子高校生が毎朝、通学に利用していた。番組は、彼女が高校の卒業式のために列車に乗るまでを報じていた。彼女が高校を卒業し、その春、その駅は廃止になった。
感動とか涙とかでたたえたら関係者に否定されそうな気もするが、日本の高校生はなんて恵まれているんだろうと、うらやましくて、このようなことは、ほかの国で起こりうるかを考えたりもした。
さて、ほかの国の子どもたちはどんな風に通学しているだろうか。
本書は、世界各地で撮影されたさまざまな子どもたちの通学風景の写真に、カナダの国連大使の著者が短い文章をつけて紹介する。
きれいな服装で黄色い通学バスに乗り込む恵まれたアメリカの子どものほか、気候と環境に相応した「個性的」な乗り物――ロバや牛、犬ぞり、ゴムボートに乗って通学できるような子どもたちも、この写真集の中では〝恵まれた組〟に入っている。
ひざまで水につかりながら川を渡るフィリピンの一枚……。通学路が険しくなっていく。
山と山の間の谷や川をロープやワイヤをたぐって渡る子どもたち、あるいは竹を組み合わせただけの危ない橋を渡って通学する子どもに驚き、その驚きが消えないうちに、今度は、絶壁にかけた梯子(はしご)を上り下りしなければ学校にたどりつけないという子どもが目に飛び込んできて……。
ページを捲りながら、ときおり脳裏に過る、マイナス?度の風雪に凍えながら学校に向かう幼き自分の辛い体験は、ちっぽけに思えてくる。
山でも川でもものともせずに健気に学校へ向かう子どもたち。じっと前方を見つめる彼らの目が希望でキラキラ光って、眩しくてならない。
◇
西田佳子訳、西村書店・1620円=2刷8万5千部。2017年7月刊行。18年度の青少年読書感想文全国コンクール課題図書になり、その後も「孫に買ってあげたい」など反響が続いている。
