カフェでカフィを [作]ヨコイエミ
一読して、あまりの巧みさに唸(うな)った。おしゃれなカフェの3組の客を、それぞれの視点で描いた連作に始まり、全16編収録のオムニバス。
会社の給湯室、街角の自販機、昭和すぎる喫茶店、福祉会館の談話室など、いろんな場所でコーヒー(もしくはお茶)を飲む。そんな日常のさりげないひとコマを切り取ることで、愛すべき人々の人生の来し方、行く末を想像させる。その手際は鮮やかで、各話のつながりも絶妙だ。
なかでも、小遣い帳に知らないカフェの名前と支出を見つけた男とその妻による小さなサプライズ劇は珠玉。自販機の前で立ち話をする男女を自販機目線で描いたエピソードにもグッとくる。妙齢男女の間合いを計りながらのトーク、じいさんたちのとっちらかったおしゃべりなど、会話のライブ感がまたすごい。
シンプルな線で描かれる豊かな表情やしぐさ、自在なカメラワーク、過不足のない背景、的確な小道具と擬音、光と影の濃淡を生かした画面処理など、作画も圧巻。これは大変な新人が現れた……と思ったら、作者は過去に別名義でデビューしており、イラストレーターとしても活躍中だった。にしても、この表現力にはやはり唸るしかない。=朝日新聞2017年10月8日掲載