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現実と奇想を往還する短編集

ウムヴェルト 五十嵐大介作品集 [作]五十嵐大介

 ケンタウロスや人魚など半人半獣のキャラクターは昔からおなじみだが、本書の表題作の主人公は、なんとカエル少女。といっても、魔法でカエルにされたとかじゃない。彼女は遺伝子操作によって作られた〈ヒューマナイズド・アニマル〉だ。瞳と足だけカエルの美少女が武装集団相手に華麗な立ち回りを演じるシーンはハリウッド級。背景に政治、経済、軍事、科学の権謀術数が渦巻く極めて現代的なSF活劇なのである。
 ウムヴェルト(環世界)とはドイツの生物学者が提唱した概念で、それぞれの生物種特有の知覚世界を指す。たとえば嗅覚(きゅうかく)に優れた犬が認識している世界は、人間のそれとは大きく異なる。ましてカエルとなれば想像もつかないところだが、それを視覚化してしまうのが作者の真骨頂。
 そして、巻末に置かれた表題作から振り返ると、他の9編も環世界的なものに通じることに気づく。ミクロとマクロ、現実と奇想を往還する視点は、生命と時間の神秘、ひいては宇宙の摂理へとつながっていく。短編ならではのユーモアも加わり、五十嵐大介入門書として好適。表題作は長編『ディザインズ』の前日譚(たん)でもある。併せて読めば、より世界が広がるだろう。=朝日新聞2017年4月9日掲載