ビール「営業王」 社長たちの戦い [著]前野雅弥
アサヒビールの平野伸一、キリンビールの布施孝之、サントリー酒類の小島孝、サッポロホールディングスの尾賀真城の各社長は1980年前後に入社した同世代で、いずれも「営業の天才」だった。
4人は失敗にもくじけず、社長へとのし上がった。経済紙記者が業界30年史を縦糸に“今太閤”たちの足跡をたどる「泣き笑い」の群像劇だ。
取引のない酒販店の店主の葬儀にも真っ先に駆けつけ、義理がたさが組合理事長の目にとまり、引き立ててもらった。酒屋の店先のライバル社の自動販売機も雑巾で毎日磨き、「取っかえていいぞ」の言葉を引き出した。飲食店店主の新規出店を手伝い、空き店舗探しや立地条件まで調べ、取引に結びつけた。上から指示する本社に対して自ら盾となり、部下には独自戦略で腕をふるわせた。
「名うての『人たらし』」と著者は4人を表現する。「心のひだをそっと探り当て、優しくさすり、最後はわしづかみにする」。要は、取引先や部下との間で共感を生む力が突出している。その共感が数々の逸話を残し、伝説となる。「勝てる営業」の極意は共感力にあり、ということか。
晩夏の休日、ビール飲みつつページを開いてはどうか。=朝日新聞2017年8月20日掲載