デザイナー歴30年以上。ファッションブランドや企業のロゴなど時代の先端で活躍してきた。昨年から、東京・六本木にあるデザインミュージアムの館長も務める。しかし「デザインケータイ」「デザイン家電」という言葉に感じるのは憤り。「オシャレとか、かっこいいとか、特別なものだけがデザインなんて、とんでもない」
飲み物やガムのパッケージも手がける。本書では、それらの制作・思考の過程や自身の歩みを振り返った。環境意識の高まり、人々の関心がモノからコトの消費へ移行したと言われるなか「大量生産」とは、前時代的な響きにも感じるが……。「でも地球規模の人口増加に直面し、大量生産品は社会インフラとして機能している。資源・流通・ゴミなどの問題に直接的につながっていて、容器の形状などをデザインする立場で、深く関わる意義を感じます」
原研哉や深澤直人ら同世代に比べ作家性が薄いと言われる。「僕にはスタイルがない。できあがるものも企業の作品」。依頼主の製品、歴史、目的は様々で、作品の色も変わるから。目指すのは、存在感を消し、デザインとも思われない「無名性のデザイン」だ。
苦労して完成させた「明治おいしい牛乳」のパッケージを、街の飲食店で隣り合わせた女性に「あれのどこがデザインなの?」と驚かれたのが、うれしかった。
しかし、名前を出さないことと責任を持たないことは別。東京五輪のエンブレムをはじめ、近年広がるデザインの一般公募には強い違和感がある。今回の本では「歪(ゆが)んだ民主主義の弊害」と表現した。「多くの意見を聞くことは大切だが、10年先まで想定して判断できるのは知識と経験、デザイン感覚を身につけた人間だけ」。責任を取りたくない意識が蔓延(まんえん)しているのでは、と警鐘をならす。
将来的には仕事の多くがAI化されるとも言われるが、それを手がける人はまた、新しい仕事をどう生み出すか考える必要がある。それもデザイン。「あらゆるところにデザインあり。そう思えば、前向きな可能性が見えてきます」
(文・真田香菜子 写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2018年1月28日
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