- 『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』 江國香織著 朝日文庫 821円
- 『英子の森』 松田青子著 河出文庫 670円
- 『お話はよく伺っております』 能町みね子著 文春文庫 788円
(1)は、すべて仮名で書かれた文章による幼児の体感する世界にはじまり、小学生、父母、老女、ピアノの先生など、主体を変えながら、共通する舞台での出来事が描かれる。同じ場にいても感じ方が異なる妙味が対話にも宿る。それは根源的な淋(さび)しさであり、豊かさに通じると思う。
(2)は、母親の強い希望で高度な英語教育を受けてきた英子の現実が、シビアにつきつけられる。娘にすべての夢を託して生きる母親の心理を投影したような深い森の中に彼らの家がある、というシニカルなファンタジー仕立て。
(3)は、街の中で耳にする様々な会話をキャッチし、独特の考察とともに、そこに漂う人間の物語が味わえるイラストエッセイ。いろいろな人のちょっとした癖を繊細に感知する視線は鋭くて優しく、おもしろくて哀(かな)しい。
いつの間にか覚えた言葉を駆使して毎日当たり前のように使い分けているが、改めて考えてみると、奇跡的なことだと思う。言葉を使うということを改めて考えさせられた三冊である。=朝日新聞2018年01月07日掲載