1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 池澤春菜が薦める文庫この新刊!

池澤春菜が薦める文庫この新刊!

  1. 『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』 ケイト・ミルフォード著 山田久美子訳 創元推理文庫 1404円
  2. 『紙の魔術師』 チャーリー・N・ホームバーグ著 原島文世訳 ハヤカワ文庫 864円
  3. 『虚ろなる十月の夜に』 ロジャー・ゼラズニイ著 森瀬繚訳 竹書房文庫 972円

 寒い日に暖かい部屋の中で本を読む以上の幸せはない。
 (1)は雪に閉ざされた小さなホテルでおこる謎と奇跡の物語。養子である主人公がテーブルトークロールプレイングゲームを通して、自分の隠された一面に気づき、生き生きと活躍する流れが心地よい。コージーミステリーの佳作。
 (2)の舞台は魔術が当たり前に存在する1900年代のイギリス。魔術学校を首席で卒業したシオニーの師となったのは時代遅れな紙の魔術師。でも魔術師は生涯一つの物質としか結びつくことができない。不承不承受け入れたシオニーは思いもかけぬ波乱に巻き込まれる。折り紙を身近なものとして知っている日本人にこそ読んで貰(もら)いたい。
 (3)ゼラズニイの27年ぶりの邦訳、しかも架空の神話体系クトゥルーが下敷き、登場人物はあの伯爵にあの博士、あの名探偵、あの連続殺人犯、そして語り部は犬。盆と暮れと正月とハロウィーンとクリスマスがいっぺんに来たようなお祭り騒ぎ。一つでも引っかかった人にはぜひ。=朝日新聞2017年12月10日掲載