- 『二ノ橋 柳亭』 神吉拓郎著 光文社文庫 734円
- 『夜また夜の深い夜』 桐野夏生著 幻冬舎文庫 745円
- 『ハティの最期の舞台』 ミンディ・メヒア著 坂本あおい訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1188円
(1)は、『私生活』(直木賞受賞)『曲り角』『明日という日』などの傑作短編集で知られる神吉の初期作品集。省筆に富んでいながら温かくて優しくて、どこかユーモラス。人生の哀愁を行間から滲(にじ)ませる達意の作家である。直木賞候補作「ブラックバス」「二ノ橋 柳亭」と「金色の泡」が特にいい。神吉作品、もっと復刊してほしいものだ。
(2)は、ロルカの詩からとられた題名の小説で、四人の女のサバイバルを捉えている。世界各地での民族紛争や貧困を見据え、より残酷で悲惨極まりない女性たちの肖像を激しく刻み込む。神の存在、罪と罰などを根底から問い直す破壊力にみちた秀作だ。
(3)は、『マクベス』の夫人役を演じた女子高校生が殺され、それを追及するミステリー。女子高校生、教師、保安官の視点から事件の核心へと向かう。過去と現在を自在に往復して、女生徒の多面的な性格と犯した罪の重さが静かにあぶりだされていく。欲望と自らの裏切りという『マクベス』の主題を重ねた精緻(せいち)なドラマだ。=朝日新聞2017年09月24日掲載