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東直子が薦める文庫この新刊!

  1. 『紙の動物園』 ケン・リュウ著 古沢嘉通編訳 ハヤカワ文庫SF 734円
  2. 『鳥の会議』 山下澄人著 河出文庫 691円
  3. 『ブローティガン 東京日記』 リチャード・ブローティガン著 福間健二訳 平凡社ライブラリー 1404円

 (1)は、ヒューゴー賞を受賞した表題作を始めとする短編集。作者は中国で生まれてアメリカに移住し、活動している。欧米人とアジア人が共存する社会、人間と非人間との対比などから、虐げられた人々の心が蠢(うごめ)く。紙で折られた動物が生き生きと動くのは、「母さん」の魂が込められているから。合理主義社会に、神秘的な言葉の魔力が迫る。(2)は、全く新しい読後感をもたらす小説である。荒(すさ)んだ街に住む少年たちの、暴力と憤りと悲しみにみちた日常の時間が、随所で交錯する。混乱しながら読み通すうちに、いたしかたなく事件に巻き込まれていく主人公の孤独が沁(し)みる。同時刊行の『砂漠ダンス』と併せて読みたい。(3)は、著者が1976年に1カ月半にわたり東京に滞在した折に、日記のように作られた詩である。即時性の高い、軽やかで独特な言葉の背後から、微熱をまとう昂揚(こうよう)感と、異国にいることの孤独と哀愁が伝わる。あの日彼に偶然会うことのできた日本人の眼差(まなざ)しが、永遠の光を放っている。=朝日新聞2017年05月28日掲載