1. HOME
  2. 書評
  3. 『初代「君が代」』書評 西洋音楽受容史の一端

『初代「君が代」』書評 西洋音楽受容史の一端

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2018年05月19日
初代「君が代」 著者:小田豊二 出版社:白水社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784560096277
発売⽇: 2018/03/21
サイズ: 20cm/238p

初代「君が代」 [著]小田豊二

 曲は美しいが、言葉の区切り方がいただけない。「さざれ」と「石の」の間の切れ目もずいぶん長い。初代「君が代」をYouTubeで聞いてみた感想である。
 現在の「君が代」がドイツ人フランツ・エッケルト編曲で1880年に完成したものであることは知られているが、それより11年前、エジンバラ公を迎えるために英国人フェントンによってまったく別の「君が代」が作られていた。
 おそらく意味をわからぬまま、言葉の音だけを聞いたフェントンが作曲したとされる。この時、薩摩琵琶「蓬莱山(ほうらいさん)」に出てくる「君が代」部分を歌って協力したのが、通詞の原田宗助だったことを軸に、著者が初代「君が代」成立の通説に挑んでいる。西洋風の楽隊は幕末から各藩に存在したこと、鼓笛隊の音楽指導は記譜に通じていた地元の能の囃子方(はやしかた)が主導した話など、日本の西洋音楽受容史の一端を垣間見ることのできる興味深い作品である。