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「海を渡って」書評 「移民」を映し出す「鏡」

評者: 武田徹 / 朝⽇新聞掲載:2016年04月17日
海を渡って 著者:鶴崎 燃 出版社:東京ビジュアルアーツ ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784865410402
発売⽇:
サイズ: 37cm/115p

海を渡って [著]鶴崎燃

 写真の限界はレンズの画角の限界でもある。写らないものは表現できない。当たり前すぎる話だ。
 だが優れた写真と、それを巧みに編んだ写真集は、その限界を超える。本写真集を開くと上段に帰国後の中国残留邦人の生活の写真が、下段に今の中国東北部の風景やそこで働く日本の若者の写真が置かれる。縦に配した写真の間には「満州国」の時代から現在までの、日本と中国との時空間の隔たりが広がる。
 次いで上段には在日ミャンマー難民、下段に現在のミャンマーとタイとの国境の難民キャンプの光景。更に日系ブラジル人の、日本とブラジルでの生活を対比する写真が上下に並ぶ。
 様々な理由で海を渡り、国境を越えた人たちは単なる被写体の位置に留(とど)まらない。写真集の中の彼らの姿は、移民を生み出してきた歴史と、移民と向きあう方法を今なお模索し続けている私たちの現在を、レンズの画角を超えて映し出す「鏡」となるのだ。 
    ◇
 赤々舎・4320円