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佐藤賢一「ラ・ミッション―軍事顧問ブリュネ」書評 時代の本質つかんだ物語構築

評者: 本郷和人 / 朝⽇新聞掲載:2015年05月10日
ラ・ミッション 軍事顧問ブリュネ 著者:佐藤 賢一 出版社:文藝春秋 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784163902135
発売⽇: 2015/02/26
サイズ: 20cm/438p

ラ・ミッション―軍事顧問ブリュネ [著]佐藤賢一

 歴史小説を書く作家は、表面的な事象を学ぶのに十分に忙しく、時代の特徴を見極めるところまではなかなか手が回らない。だからたとえば国の興亡を描く物語であれば、等しく日本の戦国時代的なテイストになってしまいがち。
 これに対して少数ではあるが、舞台となる時代・社会の本質をしっかりつかんで土台を形成した上に、ストーリーを構築していける人がいる。ヨーロッパ史における佐藤賢一は、まさにその代表である。
 本書で彼が描くのは、幕末・維新の戊辰戦争を敗残の幕府軍とともに戦った「ラスト・サムライ」、フランス軍事顧問団(ラミッションミリテール)のジュール・ブリュネ大尉。戊辰戦争は単なる日本の内戦ではなく、列強の利害がダイレクトに作用する世界史の一コマであった。強大な権力の思惑の中で、ブリュネと友人たち—オオトリやイジカタら—は、自らの士道(エスプリ)を誇りをもって貫いていく。そのさまが震えるほどにかっこいい。どこぞの「イケメン大河」に物足りぬ方は是非!
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 文芸春秋・1998円