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さまざまな情景が次から次へと

本日の高座 演芸写真家が見つめる現在と未来 [作]橘蓮二

 出番前の張りつめた表情。舞台ではじける瞬間。演じ終え深々と頭を下げる姿……。
 落語をはじめ、寄席演芸を撮り続ける橘蓮二さんの写真集『本日の高座 演芸写真家が見つめる現在と未来』(講談社・1728円)が出た。140人を超える芸人の写真に加え、文章にも独自の味がある。
 「距離は保ちつつ影響を受けつづけている」という柳家三三(さんざ)師匠の次は、話題の講釈師・神田松之丞(まつのじょう)さん。「目の前の事象だけがすべてではないということを本能的に理解している」のが「真の凄(すご)み」という。
 熟練の名人たちについては、こう書く。「空間が立体的というか、纏(まと)う空気に厚みがあり、向かってくる声の方向が一方向からではなく、全体が包みこまれるように感じられる。ゆえにさまざまな情景が次から次へと現れ、撮影するのが本当に楽しい」
 笑福亭鶴瓶、春風亭昇太、立川志の輔、立川志らく、桂歌丸、柳家小三治といった師匠方の写真はたっぷり。印象深いのは、今後を担う若手をこれでもかと見せる終章だ。21ページに57人。思いがあふれる。=2018年6月2日掲載