- 『花の命はノー・フューチャー』 ブレイディみかこ著 ちくま文庫 842円
- 『あるがままに自閉症です』 東田直樹著 角川文庫 605円
- 『まど・みちお詩集』 谷川俊太郎編 岩波文庫 799円
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(1)怒鳴り声、酔った大声、隣家の爆音……。暮らしてみたイギリスからは、よそいきの姿とは違った喧騒(けんそう)が聞こえてくる。パンクロックさながらに疾走感のある文章は、シリアスで笑えない場面を書いても、チャーミングさに魅了されるから不思議だ。これまで誰も語らなかったこと、聞いたことのない語り口を持つ、真にオリジナルな一冊。
(2)著者は重度の自閉症でありながらも、自らの内面を丁寧に綴(つづ)る。その時の気持ち、考えたことが積み重ねられ、読む者の心にそっと触れるのは、それが注意深く、平易に語られるからであろう。「嬉(うれ)しい気持ちや悲しい気持ちだけが、人の感情ではないのです」。この自分に返ってくるような言葉に、ドキッとした。
(3)生きとし生けるものが、その存在であるというおどろき、人間が起こす戦争という愚かさへのかなしみ。詩人の語る言葉はいつでも、世界とはじめて触れ合うような瑞々(みずみず)しさに満ちている。「ぞうさん」だけではない、広々とした、命あるものへの褒めうた。=朝日新聞2017年7月9日掲載