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ポール・オースター「闇の中の男」書評 戦争が生む「傷」浮き彫りに

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2014年07月27日
闇の中の男 著者:ポール・オースター 出版社:新潮社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784105217174
発売⽇: 2014/05/30
サイズ: 20cm/237p

闇の中の男 [著]ポール・オースター

 眠れぬ夜、元書評家の老人が物語を夢想する。舞台は9・11もイラク戦争も経験していないもうひとつのアメリカ。代わりに、ある州が国から独立を宣言し、内戦が起きている。主人公の青年は「現実の世界」に戻ることを願うが、そのためには物語の作者である老人を殺さねばならない。
 著者は物語中物語を巧みに配し、現実と虚構の境界を揺るがせることで、戦争が生む「傷」を浮き彫りにしていく。残酷な結末で唐突に物語を終えた老人は、孫娘に家族の歴史を語り始める。やがて明らかになるそれぞれの抱える喪失。終盤、娘の引用する詩人の一節が、国や家族を「再生」へと導く光のように輝く。
    ◇
(柴田元幸訳、新潮社・2052円)