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合理的でドライだった中世人

贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書) 著者:桜井 英治 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

価格:864円
ISBN: 9784121021397
発売⽇:
サイズ: 18cm/232p

【角川財団学芸賞(第10回)】中世日本の世界的にも類を見ない功利的な贈答儀礼から見えてくるものとは…。1年中贈り物が飛び交い、損得の釣り合いを重視する中世人の精神を探り、…

評者:横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2012年01月15日

贈与の歴史学―儀礼と経済のあいだ [著]桜井英治

 お歳暮の手配が終わったら年賀状を書き、出していない人から賀状が来たら慌てて返す。たとえそれが、すぐに顔を合わせる人であってもだ。もらったからにはお返ししなければならない、という意識は、現代でも脈々と生き続けている。
 こうした贈答儀礼を虚礼だ、建前ばかりで情が薄い、などと批判する人が本書を読んだなら驚くことだろう。主従関係が血より濃く、絆で深く結ばれた共同体が形成された時代、というイメージが広く流通している中世像だが、こと経済活動に関していえば、その姿はあっけなくくつがえされるからだ。中世人は贈答において、現代人以上に合理的かつドライな計算をしていたのである。
 中世では、贈答品は「もらって嬉(うれ)しいもの」ではない。物は貨幣のように循環するのが当然なのだ。1551年の正月、本願寺の証如(しょうにょ)は、細川氏綱から曲物(まげもの)に入れた詰め合わせ10合を贈られた。だがよく見ると、そのうち5合は、10日ほど前に証如自身が三好長慶(ながよし)に贈ったものだったのだ。自分の贈り物が回りまわって帰ってきたというわけ。これを「失礼千万」と息巻くのは現代人の考えで、証如は大笑いしただけである。こんな例はいくつもあり、そこだけ読んでも実におもしろい。
 また、贈り物の目録を先に持参し、後で精算する方法もさかんに行われた。いわばツケにするのだが、当然滞納する輩(やから)も現れる。皇族も例外ではない。伏見宮貞成(さだふさ)は、なんと今なら1100万円に相当する滞納をしていたという。払うために借金をしたが、それは恥ではなく、相応の贈答ができないほうが恥だった時代なのである。
 著者は『室町人の精神』(講談社学術文庫)で知られた中世経済史の俊英。その緻密(ちみつ)な論理性と先行研究への目配りは本書でも生かされている。中世イメージが変わること請け合いの一冊である。
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 中公新書・840円/さくらい・えいじ 61年生まれ。東京大准教授(日本中世史)。『日本中世の経済構造』など。