「チュサンマとピウスツキとトミの物語 他」書評 北の地の悲恋、自らの物語に転生
評者: 椹木野衣
/ 朝⽇新聞掲載:2018年07月07日
チュサンマとピウスツキとトミの物語他
著者:花崎 皋平
出版社:未知谷
ジャンル:詩歌
ISBN: 9784896425536
発売⽇:
サイズ: 19cm/153p
チュサンマとピウスツキとトミの物語 他 [著]花崎皋平
ピウスツキはポーランド独立の英雄ユゼフの兄。ロシア皇帝の暗殺未遂でサハリンに流刑されるも、アイヌの世界と出会い、心からアイヌを敬い、敬われ、「アイヌ人の言葉と慣習の謎を完璧に理解していた数少ない白人の一人」と言われる。アイヌの娘チュサンマを愛し、二児をもうけるも、革命家ゆえに離れ離れとなり、最後はセーヌ川に身を投げて死んだ。チュサンマも北の地でその帰りをひたすら待ち、孤独のうちに死んでいった。
この悲恋をめぐる史実と二人の物語を、著者はみずからの北海道との関わりや、トミという女性との愛と別離に転生させ、詩とも散文ともつかない文章に練り上げた。19世紀の東欧からロシア、サハリン、北海道に至る交流史、アイヌの歌や自然観、アイヌ研究批判、ベ平連やウーマン・リブといった北の地での市民運動の黎明が、著者自身の生涯の回顧や告白を伴いながら、宇宙にまで想いを馳せてその不滅を歌われる。