現代短歌の牽引者、17年ぶりの歌集
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2018年08月11日
水中翼船炎上中
著者:穂村弘
出版社:講談社
ジャンル:詩歌
ISBN: 9784062210560
発売⽇: 2018/05/23
サイズ: 22cm/202p
水中翼船炎上中 [著]穂村弘
17年ぶりの歌集という。
現代短歌を牽引する歌人の生の姿が充分に窺える。
たとえば、本書のタイトルとなっている章「水中翼船炎上中」に収められている次の歌などがそうだ。
太陽に目を閉じている 褌で立ち泳ぎした祖父の未来よ
あるいは、「すれちがう人が水着で自転車を漕いでいるから海なんだろう」などにこの歌人の「今」があるのだろう。この時代がどういう時代なのか、を考える感性がこうした歌に凝縮しているように思う。
この歌集に収められている歌は328首、11の章のタイトルは「楽しい一日」とか「火星探検」だが、それは子供時代や母の死を歌っている。自らの記憶の断片や成長時の光景に強いこだわりを持ち、それを言葉に置き換え、そして今に繋げているのだろう。
現代短歌が果たしているこの役割に、私たちは注目する必要がある。言葉は生命力を持っていると気づかされるからだ。