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朝吹真理子「TIMELESS」書評 時間を超える苦悩、出口を模索

評者: 都甲幸治 / 朝⽇新聞掲載:2018年09月15日
TIMELESS 著者:朝吹 真理子 出版社:新潮社 ジャンル:小説

ISBN: 9784103284635
発売⽇: 2018/06/29
サイズ: 20cm/266p

TIMELESS [著]朝吹真理子

 うみの両親は人を愛せない。母はお茶の輸入の仕事で世界を飛びまわりながら、愛人を取り換え続ける。一人っ子のうみの世話はお手伝いさんと祖父母の担当だが、誰も彼女とは遊んでくれない。長く別居中の父が現れるのは、父親ぶろうとしてうみを食事に誘うときだけだ。
 家庭の中で孤立したうみは限りなく傷ついていく。そして人を愛することに臆病になる。また傷つけられるのではないかと思うと、自分の心をさらけ出せない。そんな彼女が選んだのが、何の愛情も感じないアミと結婚することだった。
 アミとなら気遣いのある家族が作れるはずだ。しかも結婚すればもう、恋愛をしなくてすむし、子供がいれば寂しくない。だがこうした合意に基づいた夫婦関係は短期間で崩壊する。アミがうみを愛し始めてしまうのだ。結局アミは出ていき、息子のアオが生まれる。同時にうみは、全くの他人であるこよみを養子として受け入れる。
 両親によるうみの虐待はすさまじい。肉体的な暴力こそないものの、2人のもっともらしい言葉と裏の感情のずれが、絶えずうみに襲いかかる。自分勝手な母は彼女にほとんど触れようともしないし、父親は赤いポルシェでうみが吐くと、目に「殺意のような昏さ」を浮かべて舌打ちをする。
 うみの愛のない結婚は、気持ちを受け止めてくれない両親への復讐だろう。だがそれでも両親はうみに関心を持たない。唯一の救いはこよみだ。血縁のないうみとこよみだけが、本作では真の家族となる。うみによく似た女性として育った彼女はロンドンに行き、自力で人生を切り開く。
 両親、うみ、アオと続く精神的な暴力の連鎖は時間を超える(タイムレス)。古典文学や音楽、ブランド品の名前がちりばめられた静かな文章の向こうには、生々しい苦しみがある。ならば出口はないのか。その模索である本書は、きちんと時代の苦悩を貫くことができている。
    ◇
 あさぶき・まりこ 1984年生まれ。2009年「流跡」でデビュー、ドゥマゴ文学賞。『きことわ』で芥川賞。