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女らしさ求める「あほらしさ」

東直子が薦める文庫この新刊!

  1. 『橋本多佳子全句集』 橋本多佳子著 角川ソフィア文庫 1555円
  2. 『芸人と俳人』 又吉直樹、堀本裕樹著 集英社文庫 734円
  3. 『日本語びいき』 清水由美(文)、ヨシタケシンスケ(絵) 中公文庫 756円

 傾倒している文学者の全集は、手元に置いておきたくなる。しかしたいてい、箱入りなど重々しい装丁が施され、価格も高い。本棚でかさばる。もっと軽やかで実用的な全集があればいいのに、と思っていたのだが、近ごろ角川ソフィア文庫で、釈迢空や西東三鬼らの全集が刊行された。

 そして今年の8月に出版された(1)。「乳母車夏の怒濤によこむきに」「いなびかり北よりすれば北を見る」等、激しさと冷静さを併せ持つ橋本多佳子の独自の俳句作品に魅(ひ)かれていたので、気軽に持ち運べる文庫版の全句集がとてもうれしい。自句自解、師にあたる山口誓子の解説、文庫用に書き下ろされた詩人の小池昌代のエッセイも掲載されている。多佳子に女らしさを求めた当時の批評に対し、誓子が解説で「作家は人間の中から出て作家となる。その作家がたまたま女性である場合は女流作家と言われるが、その作品に女らしさがにじみ出ているとすれば、それはあくまで結果である。それは結果として待つべきで求むべきではない。男の作家に男らしさを求めたりするだろうか。あほらしい」と述べた文章が、今の時代にも、清々(すがすが)しく響く。

 (2)では、芥川賞作家でもある芸人の又吉直樹に、若手俳人の堀本裕樹が、俳句の手ほどきをしている。季語や切れ字の生かし方、句会記録など、俳句を深めていく様子を追体験するようにわくわくしながら読んだ。俳句特有の言葉の捉え方、ひいては日本語の妙が、対話としてカジュアルに理解できる。「蛙(かわず)の目借時(めかりどき)」という不思議な季語から広がる又吉のエッセイなど、多角的に楽しめる。

 (3)は、日本語教師の作者が、外国人に教えることで気付いた日本語の側面を伝える。実際の発音とひらがな表記の違い、「死んでいる」等の見た目は現在形だが実は過去形の内容である動詞など、無意識だった言葉の領域を柔らかく刺激される。「『正しい日本語』ではなく、『適切な日本語』を見極める」ための判断力の必要性を語る作者の言葉に、はっとした。(歌人、作家)=朝日新聞2018年9月15日掲載