俵万智「牧水の恋」書評 大歌人の大恋愛、立体的に辿る
評者: サンキュータツオ
/ 朝⽇新聞掲載:2018年10月06日
牧水の恋
著者:俵万智
出版社:文藝春秋
ジャンル:日本の小説・文学
ISBN: 9784163908885
発売⽇: 2018/08/29
サイズ: 20cm/290p
牧水の恋 [著]俵万智
短歌、とっつきにくくなかった。面白い!
〈山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇を君〉
テンション高すぎの若山牧水。恋をして、想い人に口づけをしたというノロケた歌なんですけど、「山、海、そして君」ってスケール大きすぎて痛い。でも、その痛さが良い。恋は人を痛くさせるものだ。
著者の俵万智さんは、この歌の「山を見よ」と「山に日は照る」の間に視線を移す時間があり、海も同様、そして「いざ」にもこれからという時間があり、細切れ感を与えそうな句切れが、むしろ一首を大きく見せていると評価する。
明治40年から41年にかけて、大恋愛を経験した若山牧水。旅と酒の歌人が、生涯忘れなかった恋の始めから沈静化までを時系列に整理して、発表当時の歌壇の反応や、牧水の書簡なども踏まえて、立体的に事実を辿っていく。探偵が真実を突き止めていくミステリーを読むようで楽しい。