尾形光琳が注文したお菓子とは?
イベントの前半は、虎屋文庫が所蔵する資料をスクリーンで見ながら、中山さんによる和菓子の歴史についてのお話からスタート。
菓子文化が飛躍的に発展した江戸時代には、お菓子の銘やデザインが書かれた菓子見本帳など、今でいうお菓子の商品カタログのような冊子が作られていました。『男重宝記(なんちょうほうき)』(元禄6年)という男性のための百科事典には、約250種の菓銘と製法のほか、菓子の絵図が記されていて、茶の湯とともに、菓子の銘や意匠を知っておくのも当時の男性のたしなみだったそう。
また、虎屋文庫には尾形光琳が「色木の実 (いろこのみ)」や「友千鳥」というお菓子を注文した御用記録が残っており、「御菓子之畫圖(おかしのえず)」(宝永4年)からその意匠や材料がわかります。「光琳がどんな気持ちでこのお菓子を注文したのか?と考えるのも楽しいですよね」と言う中山さんのお話に、会場の皆さんも感慨深げな面持ちになりました。
和菓子にはどんな名前をつける?
和菓子は、その銘や意匠に四季の自然や風物が織り込まれているものが多く、和歌や俳句などをもとにつけた菓銘の響きは何とも雅です。菓子のモチーフに使われることが多いものとして植物がありますが、中でも桜は春の上生菓子によく使われ、咲き始めから満開になっていくまでの意匠に様々な銘がつけられます。
「例えば『手折桜(たおりざくら)』は、桜のあまりの美しさに、手折って土産に持って帰りたいという思いが込められていて、どのような和歌や俳句を思い出すかは、その人の感性によりますね」と中山さん。また菊は「翁草」、牡丹は「富貴草」のように、植物の異名を銘にするのも言葉遊びのようで面白いですね。
センスが光る 自分だけの菓銘付け
イベントの後半では、お楽しみのおやつタイム♪ 白と黒のそぼろで、雪が降りつもる深山の風情を表したきんとん製の上生菓子(現在は販売終了)は、とらやでは「深山(みやま)の雪」という菓銘がついています。しかし、このお菓子をただ美味しくいただくだけではありません! 広辞苑を紐解き、この上生菓子に「自分で銘をつけてみよう」という趣向です。みなさん広辞苑を開き、このお菓子から想像して見立てた菓銘を考える姿は真剣そのもの。
筆者も久しぶりに広辞苑をめくってみると「暖(ゆる)らか」など、初めて知る言葉の多さに驚き「ほかにはどんな言葉があるのかな?」と、つい菓銘をつけることを忘れてしまいそうになるほど読み込んでしまいました。
みなさんがつけた菓銘は会場に貼られ、名付けた理由もそれぞれに添えられています。各自気に入った銘に付箋をつけ、人気があったのは「冬木立(ふゆごだち)」や「夜半(よわ)の舟」など。みなさんの言葉選びのセンスと個性が光りますね!
お菓子の背景や物語にまで思いを巡らせて
「和菓子の意匠表現には『具象』と『抽象』があり、菓銘を聞くことによって様々な見立てを楽しむことができます。お菓子の形をみて“かわいい~!”だけで終わるのではなく、菓銘を聞き、そこから喚起されるイメージに思いを巡らせてほしいと思います」と中山さん。参加費無料にも関わらず、お土産に虎屋の小形羊羹も(一人1個!)いただき、お腹も知識も満たされたイベントでした。
年末年始、たまには「広辞苑」をめくり、まだ知らない「言葉」を見つけてみてはいかがでしょうか? その時はぜひ、和菓子をそえて……。