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バッドエンドでも現実考える契機に 湊かなえさんトークショー

湊かなえさん=槌谷綾二撮影

 デビュー10周年を迎え、書き下ろし長編『未来』を刊行した作家・湊かなえさんを迎えた「関西スクエア 中之島どくしょ会」(朝日新聞社主催)が11月、大阪市であった。覚悟して臨んだ「缶詰め」など創作の舞台裏を語った。次回作の構想も明かされ、会場からは拍手がわきおこった。
 『未来』は、小学生の少女・章子のもとに、20年後の自分を名乗る送り主から手紙が届く場面で始まるミステリー。2016年夏に書き始めたが、序盤で「ピタッと止まってしまった」。昨秋は「閉じ込められて書けなかったら作家としてはあきらめなければいけない」との覚悟で初の「缶詰め」に臨んだ。年末年始は1日15時間、机に向かったこともある。
 「乗り切るためには糖分が必要なんですけど、大阪のおいしい食パン屋さんが近くにもできて。それに飽きたら、今度はチョコフレークを1時間書いては食べ、書いては食べとやっていたら、身を削って書いたはずなのに5キロ太っていて」と笑いを誘った。
 その後は、作家としての10年間を振り返る話題へ。08年のデビュー作『告白』がベストセラーになると、「イヤミスの女王」が代名詞になった。「イヤミス」は、読後に嫌な気持ちにさせるミステリーという意味だ。
 「だんだんイヤミスを風呂敷に包んで、押し入れにしまいたいという気分にもなりました」と振り返りつつ、「腹黒い自分をほくそ笑むのって楽しかったりしますし、一概に否定はしたくない。これからも上手に付き合っていきたいです」とも語った。
 「実生活では、折り合いをつけなきゃいけないことがあるし、我慢をしなきゃいけないこともあるけれども、小説のなかでは感情のままに突き進んでもいいんじゃないか。たとえ、それがバッドエンドでも、現実にそうならないために、どうしたらいいかを考えるきっかけになると思います」
 来場者に「執筆中に助けられているアイテムは?」と聞かれると「ガムをかんでいます。連載が重なったときは、作品ごとに味を変えていました」。
 今後の作品については「実際に起きた殺人事件を映画化する脚本家の話」を書き下ろしで準備中、と明かした。自身にも映像化された作品が多いが、「実際に起きた事件を映像にするというのはどういうことなのだろうと考えるような作品です」と語った。
 さらに「ゲームのような、本格ミステリーの『犯人は誰だ』というのも書いてみたい」と意欲も見せた。(山崎聡)朝日新聞2018年12月29日掲載