「一発屋」のはずが、予想外に受け入れられた
――第一弾『山田全自動でござる』に続き、第二弾『またもや山田全自動でござる』が昨年秋に出版されました。あるあるネタを毎日投稿するインスタを始められたのが2016年12月。2年足らずの間に、とんとん拍子にここまで来られた感じがあります。
本当にその通りです。1冊目のお話をいただいたときも驚きましたが、まさか第二弾の「またもや」を出すとは(笑)。正直、自分では「一発屋」という認識でいて今年(2018年)いっぱいくらいかなと思っていたけど、ありがたいことにもう少し息が続きそうです。
――もともと全自動さんはイラストレーターでウェブ関係のお仕事をされていたんですよね。「浮世絵×あるある」の作風が生まれた経緯が知りたいです。
僕は不動産のサイトやリーフレットで、イラストや漫画を描く仕事を主にしていました。それで、イラストを描くのが好きだし、もっと仕事を広げたいなと思うようになって。イラストレーターって世の中にたくさんいるから、同じようなテイストなら、やっぱり安く受けてくれる人に仕事がいくんですよね。だから自分にしか描けない、指名で来るような絵を描こうと考えて、いろいろ試して練習していました。
そのなかで、なんとなく浮世絵を描いてみたらすごくしっくりきて。周りの人にも褒められて、それで本格的に描き始めたんです。それが5年くらい前ですね。
――その頃はまだ、あるあるには行き着いていないんですね。
はい。最初は絵だけ描いていました。その頃、海外のSNSでお侍さんが楽器を弾いている絵がバズっていたことがあって、僕も侍がギターを弾いている絵とかを描いてFacebookにあげ始めたんです。絵の解説として「ギターをチューニングしてたら弦が切れた」とか、その程度の一言を入れて。それがいつの間にかあるあるになっていきました。知り合いだけが見ていたFacebookですけど、みんなが喜んでくれたからしばらく投稿していて、徐々に「もういいかな」とやらなくなりました。
その後インスタが流行りだしたときに、奥さんから「前にやっていた浮世絵のあれ、面白かったからインスタでやってみたら?」と言われたんです。それで、あまり深く考えずに1日1ネタ、インスタに投稿を始めました。
フォロワーが1秒で100人増え、1日で8万人に
――なるほど、奥さんの素晴らしい助言がきっかけだったんですね。でも毎日ネタを描いて投稿するのは大変ではなかったですか?
Facebookに投稿していたものを入れて100個くらいネタのストックがあったので、とりあえずそれをひとつずつあげていました。それで新しいのも描きながら半年くらいかけて徐々にフォロワーが増え、ついに1000人超えに。自分としては「もう御の字」と喜んでいたら、バズフィードというサイトに取材してもらって、その記事がLINEニュースのトップページに載ったんです。そうしたらフォロワー数が信じられないほど跳ね上がって。1秒で100人とか増えて、1日で8万人になって、さらにどんどん増えていきました。
――すごいですね、一夜にして! 書籍化の話がきたのもその頃ですか? オファーを受けてどう思いましたか?
2017年の前半には書籍のお話を頂いていた気がするので、同じ頃だと思います。本にするなんて、僕は責任取りませんよ?みたいな感じでしたね(笑)。いまだに実感がないんですよ。あれよあれよという間に、こうなっていったので。
――毎日更新していてもネタが尽きることはないですか? 基本的には自分の経験をネタに?
いちおうまだストックもあって、ネタ切れになったことはないですね。描いていることは本当に細かいことなので、生きている限り、何かしらのあるあるは見つかるんじゃないかと。半分くらいは自分の経験で、あとは人から聞いたり思いついたり。常にネタを探しているんですかと聞かれますが、そういうわけでもないんです。一生懸命考えてひねり出す感じだと、たぶんダメなんですよね。パッと気づく感じがいいというか。
ただ、どんどんハードルが上がっていくのでその大変さはありますね。お笑い芸人でもないのに、なにをやっているんだと、ふと思ったりします。
自分に似た「損しやすいお人好し」を描いている
――全自動さんのあるあるは、シュールな気づきや自虐が浮世絵とフィットして、思わずニヤッとさせられます。それに、登場人物が「真面目ないい人」ですよね。だからなのか、ネタにやさしさと、たまにもの悲しさを感じてグッときます。
ネタに登場する人は、お人好しで損しやすいタイプですね。ひどい扱いをされたり不満があったりしても、言えないような。僕自身がそうだから、自然とそういう人を描いてしまう(笑)。
あと「やさしさ」というところにつながってくるのかもしれないですが、特定の人を笑いの対象にしないようにしています。たとえば、「お店の店員さん」という表現はアリだけど「携帯ショップの店員さん」とは言わないとか。なるべく傷つく人がいないように、そこは気を付けています。
――イラストでこだわっているところはありますか?
このネタは、ほんわか、ゆるい感じが大事だと思うので、そこですかね。カッコいい感じのイラストにすると、いじわるに見えたり、きつい笑いになってしまいそうで。
――目元や口元の表情が絶妙ですよね。真顔とか半笑いでいろいろ語っている感じがして、じわじわきます。
表情はたしかにこだわっていて、なるべくリアクションさせないようにしています。リアクションさせると、途端に全体が寒くなるんですよ。無表情だけど目と口に少し変化をつけたり、あとは後ろ姿が多いです。「背中で語らせる」じゃないですけど、顔は見えなくても考えていることは伝わるような感じで。
これは、やりながらわかってきたことですが、絵を描きこみすぎるとダメなんです。つまらなくなっちゃう。「今から面白いことを言いまーす」じゃなくて、ボソッと言う雰囲気を絵にも出すようにしています。
――とくに気に入っているネタはありますか?
ガラガラの車内で知らない人に近くに座られてしまうやつは、個人的に好きですね。実際、僕もわりとあるので(笑)。あとは、中学時代に意味もなく財布にギターのピックを入れていたとか、黒歴史っぽいのも好きです。
――『またもや山田全自動でござる』は、読者から投稿を集めて全国のあるあるを紹介する「全自動四十七次」が新企画として収録されています。それぞれの都道府県を詳しく知らなくても、「なんとなくわかるわ~」って思えるおかしさがありました。
テレビ番組の「秘密のケンミンSHOW」の感じをやりたくて、それで地元のみなさんに教えてもらいました。大阪はあるあるだらけなので例外ですが、田舎に行くほど文化が独特なのかネタが豊富で、みなさんそれをちょっと誇りに思っていたり、知名度がないことを自虐したり、興味深かったですね。
ちなみに、僕は佐賀生まれで出身を聞かれたとき、「佐賀ってどこ?」と言われるのがわかっているので「九州」と答えてきたんですが、同じ投稿があってちょっとうれしくなりました。
クスっと笑って、すぐ忘れるくらいがちょうどいい
――たくさんフォロワーがついて2冊も本が出ました。ご自身では人気の要因をどう捉えていますか?
読んでくれている方の7割がアラサーの女性で、「癒されます」とか「なんかほっとします」とよく言っていただきます。毎日夜に投稿していますが、会社帰りに楽しみに見てくださっている方も多いみたいです。みなさんいろいろ大変でしょうから、「ほんわか」を求めているのかなと。誰も攻撃しないゆるいネタで「わかるわかる、こういうのあるよね」って共感して、癒されるのかもしれないですね。
――あるあるって不思議ですよね。読んで人生が変わったとか、お腹がよじれるほど大爆笑とか、そういうものではないけど、なんとなく気持ちが軽くなって。
たぶん何もないのがいいんでしょうね。気楽に見て、クスっとする。それがいいというか、それしかないんですけど(笑)。見てすぐ忘れちゃうくらいで、残らないのがいいんだと思います。
――これからも同じスタイルで続けていきますか?
実は、ずっと同じだと飽きられるのかなと思って少し違う試みをしたこともあって。あるあるなしで、喜多川歌麿っぽい大首絵(上半身や顔を大きく描いた浮世絵)をちょっとおもしろい感じにした絵を投稿したら、フォロワーが一気に減りました(笑)。
「それじゃない感」がすごかったんでしょうね。好きなアーティストのライブに行って聞きたかった曲をテクノバージョンにされたとか、そういう類の残念さがあったようで。だからいつも通りのスタイルを崩さずに、毎晩ボソッとあるあるをつぶやく感じで淡々とやっていきたいです。もし第三弾を出すことがあっても、ネタをひたすらやっていく形がいいんだろうなと。でもさすがに、3冊目はないですかね(笑)。