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ピエール・ルメートル原作の仏映画「天国でまた会おう」 ラストを変えた理由

文:永井美帆、写真:斉藤順子

原作は映像化は不可能といわれた壮大な物語

 第1次世界大戦の休戦目前、若いフランス軍兵士のエドゥアールとアルベールは、ドイツ軍と対峙(たいじ)する西部戦線の最前線にいた。功を焦る上官の命令によって必要のない戦闘に巻き込まれ、アルベールは生き埋めになる。彼を助けようとしたエドゥアールは砲弾を浴び、顔の半分をもぎ取られてしまう。

 フランス最高の文学賞、ゴンクール賞を受賞したピエール・ルメートルの小説『天国でまた会おう』。スケールの大きさから映像化は不可能と思われたこの傑作が、いよいよ日本でも公開される。俳優としても知られるアルベール・デュポンテル監督が映画化し、昨年、フランスで最も権威のあるセザール賞5部門を受賞。200万人を動員する大ヒットとなった。

© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA ©Jérôme Prébois / ADCB Films
© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA ©Jérôme Prébois / ADCB Films

 映画は終戦から2年後の1920年、アルベールが憲兵隊に事情聴取を受ける場面から幕を開ける。やがて、アルベールの口から戦場で起こった忌まわしい記憶が語られていく。顔に重傷を負ったアーティストのエドゥアールには、2017年のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作「BPM ビート・パー・ミニット」で注目を集めたナウエル・ペレーズ・ビスカヤート。エドゥアールの戦友で、元銀行経理係のアルベールは監督自らが演じた。戦後、パリで共同生活を始めた2人は、不正を働き私腹を肥やす元上官への報復に燃え、壮大な詐欺を企てる。

 「原作者のルメートル氏とは所属するエージェントが同じで、出版前に読ませてもらいました。すぐに素晴らしい作品だと感じました。戦争というのは、権力者が貧しい者に殺し合いをさせること。いつの時代もエドゥアールやアルベールのような弱い人間が犠牲になり、富や地位のある者が幅をきかせるんです。ここで描かれていることは、現代も変わりません。ある意味、風刺画みたいな作品だと思いました」。昨年6月、横浜で開催されたフランス映画祭のために来日していた監督はそう語った。

主演俳優との出会いは「幸運の一撃」

 当初、映像化については消極的だった。「原作を映画化するために必要な規模を考えると、自分には到底できない。これは夢だ。もう忘れよう、と諦めていました」。しかし、後になって今作のプロデューサーから映画化を勧められ、スポンサーも現れて、実現に至った。

© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA ©Jérôme Prébois / ADCB Films
© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA ©Jérôme Prébois / ADCB Films

 監督は、原作者ルメートルと共同で脚本も手がけている。「もともと創造の産物である小説に、私の個人的解釈を入れるのは大変な作業ではありませんでした。原作から大幅に変更する部分は、あらかじめルメートル氏に承諾を得ました。彼は『映画は君の作品なんだから』と快諾してくれました。唯一、彼が最後まで変更を躊躇(ちゅうちょ)していたのはラストシーン。『現実的ではない』と言われましたが、映画にするならエモーショナルな演出が不可欠だったんです」

 原作は2人の青年を中心とした群像劇だが、すぐに「エドゥアールを中心に撮ろう」と考えついた。「彼は私の理想のアーティスト像です。絵の才能があって、ラジカルで頭脳明晰(めいせき)。そして、戦争や富、権力の愚かさを知り、反抗する。そんな人物をナウエルが見事に演じてくれました」

© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA ©Jérôme Prébois / ADCB Films
© 2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA ©Jérôme Prébois / ADCB Films

 ナウエルの今作出演はオーディションで決まった。「まず体の動きがいい。目の表情もいい。そして、若いのにとても成熟している。エドゥアールは彼しかいないと直感しました」。まさに一目ぼれ? 「いいえ、私は女性にしか一目ぼれはしません。彼との出会いは、幸運の一撃でした」と冗談っぽく笑った。

 エドゥアールの描く絵はエゴン・シーレのデッサンがモチーフになっていて、衣装はジャン・コクトーが着ていた服がモデルだと明かしてくれた。美術や衣装に造詣(ぞうけい)の深い監督は、読書家でもある。「小説やエッセー、古典など、何でも。今読んでいるのは、聖アウグスティヌスの『告白』です」。4~5世紀に活躍したキリスト教の神学者が残した言葉は、ルメートルの原作と同様、現代にも通ずる部分が多い。岩波書店から日本語版も刊行されている。

 インタビューの最後に、監督として、俳優として、最も大切にしていることを尋ねると、「Famille(家族)」と即答。来日中も、仕事の合間に家族と観光を楽しんだ。「日本は今回が初めて。宮崎駿監督や黒澤明監督など、日本には素晴らしい映画監督がいますね。『紅の豚』が好きな4歳の息子とジブリ美術館に行こうと思ったけど、2カ月待ちだって言われちゃったよ」

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