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新元号に「安」の文字は入るのか? 「元号って何だ?」著者の藤井青銅さんが大胆予想

文:加賀直樹 写真:松嶋愛

――慶応大学、明治通り、大正製薬、それから「Hey! Say! JUMP」なんかもそうか。考えてみれば身の回りには元号を称した言葉がいっぱいあります。ただ、なぜかちょっと難しく、由来も今一つ分かりづらい印象を抱いてしまいます。

 そんな元号を今、いちばん楽しめるのがこの本なんです。じつは4年前にも元号について1冊、本を出しているんですね。『アラサーの平成ちゃん、日本史を学ぶ』(竹書房、漫画家・もぐら氏との共著)。元号についてその時にひと通り調べたんです。ただ、当時は「元号が変わる」なんて頭のカケラにも無かった。

――『アラサーの平成ちゃん~』は、元号を擬人化し、キャラクター図鑑的なアプローチでしたね。漫画と年表で「平成ちゃん」たちが疑問に答えていく形式。

 もし、あの経験がないままだと、「247個の元号を最初からやる」というやり方を選んだと思います。今、世の中に出ている他の「元号本」はほとんど時系列。でも僕、それは漫画の時に1回やった。そんな本は山のようにあるわけだから、今回は「ベスト5」にしてみたり、改元の経緯としてどんなせめぎ合いがあったのか、とか、そういうのをやってみたりしたかった。そのほうが、読み物として面白いと思ったんです。

――それでこの本では、元号をいろいろなランキングにまとめて解説しているのですね。たとえば「元号に使われた漢字ベスト10」「長く続いた元号ベスト5」……。元号の由来や、誰が元号を決めるのか、などなど、元号の仕組みを立体的に知る手がかりになりそうです。

 元号は、基本的に漢字2文字。じつは「4文字元号」も過去に5つあったのですが、ともあれ、元号に使われた漢字の総数は、504字なんです。ところが、そこに使われた漢字は72種類しかないんです。

――総数に比べると、ずいぶん少ない。だとすると、何度も使われる漢字が多いということですね。

「使われている漢字ベスト5」
第5位 応(20回)
第4位 治(21回)
第2位同率 天 元(ともに27回)
(本書より)

 それは、元号には、縁起の良い漢字、意義のある漢字を使いたいという力学が働くからなんです。使われた漢字で一番多いのが「永」(29回)。世の中が不安な時には、昔に戻って安定を求めるという傾向があるんです。だから、たとえば今、「平成」の次が何かを考える時の手がかりとしては、この混沌の時代、「永」をまず競馬みたいに流し買いしておいて、「永」ともう1文字、みたいな。……あ、でも、1文字目に「永」は来ないかもな。

――それはなぜですか?

 「永」ってアルファベット表記は「E」だけど、耳で聞くと「A(エー)」。「E」と「A」がごっちゃになって分かりづらくなりそう。だから、頭の「永」はないかも知れない。

――アルファベット表記を元号の略称として使うようになったのは、昭和になってからですよね。履歴書でマルを付けたりして。

 「M(明治)」「T(大正)」「S(昭和)」が一般的になってから言われるようになりました。それまでの時代では意識していないはずです。

――今後は、元号の頭文字の子音を意識していかないと。

 かつて「平成」を決める時、「修文(しゅうぶん)」「正化(せいか)」が候補に挙がっていました。でも僕、その2つは「選ばせない案」としてわざと入れていたのだと思っています。昭和の「S」と被る「S」。

――「修文」「正化」はいわば捨て駒、捨てプレゼン案。初めから「平成ありき」だった、というのが藤井さんの説なのですね。

 だっておかしいじゃないですか。3案のうち2つも「S」があるなんて。

――それで生まれた平成。「地、平かに天成る」。ところがじっさいの平成の世は、およそ真逆の天変地異の時代となったわけですが、ともあれ、何となく元号には取っつきづらい印象が残ります。私、恥ずかしながら、「明治の前の元号は?」と問われたら、かろうじて「慶応かな……」。それ以前は知識が曖昧です。もともと藤井さんは、なぜ元号に興味を抱くようになったのでしょうか。

 もともとの動機は、「なんで亀でこんなに改元しているの?」。亀がきっかけで起こる改元がいくつもあるんですね。本書ではそのまま「亀改元」と名付けているんですけど。

――にわかに信じられない改元の理由。いま一度教えてください。いったいどういうことでしょうか。

 「祥瑞(しょうずい)改元」というんですけど、「世の中にめでたい印が出現したときに改元する」というもの。今の治世がうまく行っている印、天皇の「徳」が高い証拠として天が示したもののことを「祥瑞」というんですね。奈良時代に多いんです。「霊亀」(715年)、「神亀」(724年)、「天平」(729年)、「宝亀」(770年)。なんと55年間で4回も、亀によって改元しているんです。

――亀の文字の付いていない「天平」という元号は、亀とどういう関係があるのでしょうか。

 背中に「天王貴平知百年」の文字がある亀が献上されたというんですね。「現天皇(聖武天皇)の治世は貴く平和で、百年も続くであろう」という意味。ここから2文字をとって「天平」。……そんな亀いるかよ(笑)。無理あり過ぎですよね。

 ともあれ、亀きっかけでこんなに改元が行われている。「え、そうなんだ?」って驚いたんです。メデタイ、珍しい感じの亀が現れたから改元。豊後や肥後で真っ白な亀が見つかり献上されました。で、改元(嘉祥、宝亀)。これはおそらく、今でいうアルビノでしょう。それから、背中に北斗七星の傷がある亀が献上されました。で、改元(霊亀)。そんな亀、本当に自然界にいるのかよって気もします。ともあれ、そんな亀がじつに都合よく献上されていく。一体どういうことなのって。

――それが、各地方が中央に気に入られようとするための「せめぎ合い」である、と、藤井さんはご覧になっているのですね。

 あくまで私の推測なんですけど。でも、実際に税が免除されているんですよ。「日本書紀」などを読むと、改元に至った素晴らしい、珍しいものを献上したから、ここの郡は1年間、税を免除する、という記述があるんです。それだったら献上しますよね。地元の人々は必死で探すし、無ければ作れば良い。それを届けた人も出世するんですから、必死でやりますよ。

――長崎・対馬では、「金鉱が出た」という嘘までついて改元したというエピソードも。

 4番目の元号「大宝」(701~704年)ですね。「続日本紀」に「対馬から金が貢じられた。そこで新しく元号を建てて大宝元年とした」と書いてあります。でも、あとになって嘘だと分かった。でもこれ、僕はたぶん中央政府側が分かっていてやったんじゃないかなとも思うんです。大宝の以前の15年間は、元号の空白期間があったんです。途絶えていた元号を立て直さなければいけない、という思惑が働いた。だから、嘘だと分かっていても立て直す必要から「嘘は聞かなかったことにするよ」というのではないかという気がするんです。

――つまり、自分たちを盛り立てるストーリーが必要だった、と。

 「金が出た」って、すごくメデタイじゃないですか。じっさい対馬には日本最古の銀山があって、大宝改元の前から銀を産出しています。まあ、多少嘘でもそれを許して元号にして、国をまとめたかったんだろうなという気がするんですね。

――「亀改元」のほかにも、「メルヘン改元」「イチャモン改元」など、藤井さんならではの面白い改元カテゴライズが満載です。今回、元号を調べ直してみて、新たな発見はありましたか?

 前回は、247の元号を頭から順番に調べていたので気づかなかったんですが、今回、地方別に改元ゆかりの地をまとめてみたんです。すると、その地って、都を別とすれば中国・九州に多いことが分かってきました。何を意味するか。それは、その地方をまとめていくのに配慮したのではなかったか、ということです。たとえば、岡山に多いのは、吉備国の残滓に配慮する部分があったのだろう、と。出雲に多いのも、その勢力に対し大和政権が近しい関係を保っておきたいために採用したのではないかなと考えました。

――地方と都の繋がり、ときの政権の重視したい事象も透けて見えてくる。

 こんなふうに地方別に元号をまとめた本はないです、たぶん。福岡の放送局で番組に出演した際、スタッフが熊本出身の人だったんですよ。熊本は例の「亀改元」、「宝亀」のきっかけとなった白い亀の故郷の地です。スタッフさん曰く、「こんなことがあったなんて全然知らなかった。ちょっと嬉しいです!」って。

――「亀改元」の里。たしかに、他県出身者からするとちょっと羨ましい(笑)。

 改元ゆかりの地が多い岡山でFM局の番組に出演した際にも、岡山の人に「知っている?」と聞いてみたら「知りません」。で、教えると地元民としては何かちょっと嬉しい反応が返ってくるんですよね。僕、山口出身なんですけど、2番目の元号にあたる「白雉(はくち)」(650~654年)って誰も聞いたことが無い。現在の山口県である穴戸国の国司が、管内の山で捕獲した白雉を献上したのをきっかけに改元の儀式が行われたというんですけど。

 調べたら山口県長門市に石碑があることが分かったんです。そんな太古の昔に、山の中で雉が……、なんて分かるわけない(笑)。もうこれ、「石碑を建てた者勝ち」だと思うんですけど、でもこれ、観光資源です。特に今年は盛り上がっているわけだから。「なぜ観光資源にしないんでしょうかね」と番組で言ったら、局の営業担当の人がすぐ市役所の観光課に電話したらしく、「知りませんでした。観光にしましょう」なんて話が始まったそうです。

――時間限定。いっときも早く町興ししないと! 「次の元号」発表のタイミングがじりじり伸びた挙句、ようやく4月1日発表が決まりました。これだけ西暦が普及した今も、いよいよ、となると気になります。「改元の傾向と対策」プロの藤井さんにお聞きしたいです。ズバリ、次の元号は?

 ああ、これ、たぶん絶対当たらないですよ。だって、「これだ!」って一度広まった時点で、きっと採用されなくなるんです。いま僕が言えるのは「永」の字を軸に「3点買い」(笑)。

――「永」に続く文字は何にしましょうか?

 「永六輔」でもいいし(笑)。初の3文字元号。斬新でしょ。あ、でも、じつは3文字元号って、前漢と後漢の間の国家「新」などで僅かにあったんです。日本ではないですね、2文字と4文字しかない。

――ま、「せきこえ喉に浅田飴」は無いとして(笑)、「永」を軸に、本当に安牌で行くと?

 「永天」「永元」。で、さっき言ったようにあとで考えたら頭文字が「永」だと「E」「A」で間違いやすいから、「永」は下の文字かもな、と。だから、上に何かが来て、下に「永」。

――「嘉永」とかって過去にありましたよね。

 「嘉」みたいな字は難しいからもう書けない。最近は簡単な字にしていますから。簡単な、画数の少ない字ですね。1回しか出ていない、みたいな。「平成」も「昭和」も、初めての字と、過去に何度も出てきた字の組み合わせです。わりと登場回数の少ない字と「永」じゃないですかね。

――「昭和」の時は、「昭」の字が初登場だったんですよね。

「昭」の字自体が珍しかったんです。「昭」がつく熟語ってなかなかないんですよ。

――「平成」の場合は、「平」は過去にもあったけれど、「成」が初出場。次もそういうパターン?

 そうですね。初出場と「永」。

――しかも「M」でも「T」でも「S」でも「H」でもない。

 世の中で最近言われているのは、安倍首相の「安」が入るんじゃないかって。ラジオパーソナリティーの高瀬毅さんと話をしていたら、「みんなが言ったほうがいいんだよ。言うと採用しないから」って。だから、「『安』が入る!」って言い続けたほうが良いんです(笑)。

――でも本当に、まことしやかに「安」が入るって唱える人もいますよね。ときの首相の苗字が盛り込まれるという、凄い展開になるのかも……。まあ普通名詞として「安心」「安全」「平安」の「安」。

 「安永」は過去にありますけど。でも、みんなが言い続けると、もし候補案の中にあったとしても選ばれない。候補だとしてもきっと捨てられます。大変ですよね、これだけメディアがありふれた時代、かつて誰も言っていない言葉を選ばなければいけない。……そんなこと、可能なんでしょうかね。

――天皇陛下がご健在のまま、じっくり元号を考えるという行為自体が、無かったことですもんね。

 生前退位を表明されて以降、いろんな人がいろんなことを言って。だから今、おそらくどんどん候補の字がつぶされていっている。大変だと思います。

――チェックしている偉い人がいるんですかね、ネットでサーチしたり?

 だから僕は4月以降、「その案、俺が言っていた!」って言ってやろうと思う。いろんなパターンを書いて金庫に入れておいて、当たったものだけ出して「ほら!」って。「良い時代になるようにと、縁起の良い言葉をつける」。それが元号です。書きやすく、読みやすく、そして今まで用いられたことがなく、俗用されていない、出典のあるもの。

――そんな言葉を選び出すハードルはメチャクチャ高いかも知れないけれど、ワクワクしますね。

 親しみがあったほうが僕は良いと絶対思うんです。今まで見たことも無い2文字の組み合わせ、それぞれの漢字は知っていますけど、知らない言葉。「どこどこから出典」って言うけれど、文脈もホント遠い部分から持ってくる。意味なんてないんです。ただ縁起の良い文字を並べているだけ。でも、「カッコ良い字を2つ並べたよ。どう?」で良いわけじゃないですか。難しく思わせる力、畏怖の念を抱かせたい力学が何となく働いているけれど、でも、元号ってそういうことじゃないんだな。もっと親しみを持ったほうがいいと思います。

――本の帯に書かれた文言「いちばん楽しめる元号本」。強気の宣言だけれど、本当にそうかも知れません。

 やっぱり親しみを持ってもらえるようにしないとね。「亀改元」「メルヘン改元」。あははって笑えるのが良いじゃないですか。誰がどんな理由で元号を決めるのか、改元には人間くさい駆け引きがたくさんあるんです。そんな世界を味わうきっかけになればと思います。