十五歳のとき、ぼくは同級生の女の子と長電話をするのが病的に好きだった。平日の夜はほぼ毎日で、ひどいときには一晩に三人の女の子と二時間ずつ話していたこともある。何をそんなに話すことがあったのか、今ではまったく思い出せない。ただ膨大な時間を他愛のない会話に費やしたという記憶だけが残っている。
電話すると言っても、当時はまだ携帯が普及していなかったから、いわゆる家電にかけなければならなかった。電話に出た相手のお父さんやお母さんに「白岩と言いますけど、○○さんはおられますか?」と取り次いでもらう必要があるのだ。あれが毎回緊張するし苦手だった。特にぼくは頻繁にかけていたので、またコイツかと呆れられていたと思う。
親御さんだけでなく、相手の女の子たちもよく付き合ってくれていたなと感心する。彼女たちはぼくに対して恋愛感情があったわけではなく、普通の友だちだったのだ。彼氏でもない男からの長電話なんて、うんざりされてもおかしくないはずなのだが、ぼくが記憶している限り、嫌がられていると感じたことはなかったし、向こうからかけてくることもあったから、それなりに楽しんでくれていたのではないかと思っている。唯一うんざりしていたのは、おそらくぼくの母親だろう。息子が毎日のように長電話をするから電話代がかなりの額になっていた。一度、通話料金の明細を見せられて「さすがにしすぎじゃない?」と叱られたことがある。
さて、そんな電話大好き少年だったぼくは、ある日を境にまったく長電話をしなくなった。今でもはっきりと覚えているのだが、中学校の卒業式の日の夜、いつものように仲の良かった女の子の一人に電話をかけた。すると彼女の父親が出て、「今日は出てるみたいやわ」と不在を告げられたので、ぼくはちょっと落胆しつつも「そうですか。わかりました。ありがとうございます」と礼を言って電話を切った。その瞬間、理由はよくわからないのだが、自分の中で何かが終わったのだ。まるで魔法が解けたみたいに、誰かに長電話をしたい気持ちがすっかり消えてしまっていた。
それ以降、ぼくは本当に電話というものをしなくなった。それどころか、女の子に対する興味も一時的に薄れたようで、高校は共学だったにもかかわらず、男の子とばっかり遊んでいた。まぁ大人になってからは、普通に恋愛もしていたのだが、長電話にかんしては結局情熱が戻らないまま今に至っている。
あの電話魔の自分はどこに行ってしまったんだろう? みんな若いときは多かれ少なかれ、何かしら変なことをしていた経験があるのではないかと思うのだけど、当時の奇行がまぎれもなく自分のしたことだったと考えると、人間というのはよくわからない部分が多いし、そう簡単に理解できるものではないよなと思う。もちろん、だからこそ面白いのだけど。