28歳の平凡なOL、テルコの日常は「マモちゃん」のためだけに存在する。会社の電話はとらないのに、マモちゃんから着信があるとお風呂を飛び出してでも出る。平日の朝に「動物園に行こう」と誘われれば、会社を無断欠勤。そんなテルコの第一印象を岸井さんに尋ねると、「気持いい!」と笑った。
「テルコ役のお話をいただいた時は、『主演!?』って驚きと不安で震えたんですけど、もう翌日には原作小説を一気読みして、『テルコをやりたい』っていう気持ちに変わりました。私は勝手にいろんなものを抱え込んでしまうタイプなので、テルコとは正反対。こんな風に恋愛にまっすぐ走っていけたら気持ち良いし、うらやましいなって。でも、友達には……なれないかな(笑)」
テルコは半年前、友人の結婚式二次会でマモちゃんと出会った。原作では<ひょろりと痩せて小柄>で、<秀でてる才能>もなく、<かっこ悪いに分類される>男性として描かれている。「成田(凌)くんが演じるマモちゃんは、原作のイメージよりかっこいいですよね。もちろん小説はすごく面白いけど、これは映画版『愛がなんだ』だから。原作をリスペクトしながらも切り離して考えて、私と成田くんが演じる物語として作っていきました。テルコが歩きながら突然ラップを始めるとか、映画でしか出来ない表現もたくさん詰まっています」
まるで恋人同士のような甘い時間を過ごしていた2人だが、そんな日々はあっけなく終わりを告げる。しかし、忘れた頃に連絡をしてきてはテルコをほんろうさせるマモちゃん。「何となくテルコとマモちゃんは本音で話していない気がしたので、撮影現場ではあえて成田くんと距離をとっていました。だんだん私とテルコの人格が重なってきて、マモちゃんにひどいことをされると、まるで自分がされたみたいにモヤモヤしていましたね」
岸井さんにとって2作目の主演映画。撮影中は「とにかく気合が入っていた」と振り返る。「なぜか『主演たるもの元気でいなきゃ!』っていう気負いもあって、約2週間の撮影中はずっとテンションが高かったです。みんなで河口湖に出かけるシーンの撮影は、天気も良くって最高だったんですけど、途中からはテルコの気持ちと同化していたから、純粋に楽しめなかったのが残念です」
演技への真っすぐな姿勢は、恋愛に突き進むテルコと重なる岸井さん。仕事の息抜きは本と映画だ。「どんなに忙しくても何も読まない、見ないっていう日はないです。小説や詩の時もあれば、映画やアニメの時もあります。読まなきゃいけない台本が多い時はあまり頭の中に文字を入れたくなくて、詩やエッセーを読むことが多いかな。宮沢賢治の詩集『春と修羅』は、覚えてしまうくらい何度も読んでいます」
本や映画は「好き」というより、「救い」だという。「何か普通に生きているだけじゃ耐えられないんです。本や映画を通じて違う世界に行くことで、現実世界が頑張れる気がします。今夢中になっているのはジョジョの第5部! 『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のアニメです。朝早く起きて、仕事前に20分だけでも見て、『スタンド(登場人物が使う特殊能力)出てこないかなあ~!』って言っている時間が一番幸せです」