何かの拍子に(多いのはトラック事故)ファンタジー世界に行った現代人がチート能力(世界のバランスを崩すほど強力で、ズルとしか言いようのない力)で大活躍……というのが近年流行の「異世界転生・転移もの」の代表的なあらすじだ。同時に早くから多くの創意工夫が凝らされてきたジャンルでもあり、現代科学を活用したり、派手な冒険はせずにスローライフを送ったり、あるいはスライムや蜘蛛(くも)等の怪物に転生したり等々の多様化を経て、突拍子もない作品を次々に生み出す土壌にもなっている。
最近刊行の作品を見ても、たとえば輝井永澄(てりいえいとう)『空手バカ異世界』。どこかで聞いたような題名だが、文字通り異世界を空手で攻略する話だ。異世界に飛ばされた空手家が、本来与えられるはずのチート能力を拒否、「大丈夫だ。空手を信じろ」を合言葉に魔法使いも甲冑(かっちゅう)の騎士も炎の魔神も素手で相手にする。絶対無理なはずなのに、なぜか納得させられてしまう、一念岩をも通すを地で行く作品だ。
八薙玉造(やなぎたまぞう)『異世界最強トラック召喚、いすゞ・エルフ』(ダッシュエックス文庫・680円)は、トラックにひかれるのでなく、ドラゴンをトラックでひく話。憧れのファンタジー世界に来たのにトラック召喚なる珍妙な能力を付与された少女だけど、それでもめげずネコミミ少女勇者と友情を育んでいく。いすゞ自動車「容認」なのでエルフ(妖精でなくトラックの方)にも詳しくなれる。
「転生もの」ではないが、つちせ八十八(やそはち)『スコップ無双』(MF文庫J・648円)も「スコップ波動砲!」なる顔文字付きのサブタイトルどおりにとんでもない。なぜかスコップからビームを出せるようになった鉱夫・アランがスコップ一本で、山を吹き飛ばし、過去を書き換え、安全第一でダンジョンを攻略する。あまりのなんでもありさに、「スコップって何だっけ?」という哲学的思考にとらわれそうになる。
もはや、どんなとっぴなネタと組み合わせるか……という「大喜利」の様相さえ呈してきたライトノベルのファンタジー・ブーム。次は何が飛び出し、果てはどこへ行きつくのか、不安でもあり楽しみでもある。(ライター)=朝日新聞2019年3月30日掲載
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