外に出ると予想よりずっと天気がよくて暖かく、桜が咲き始めたニュースに驚いて、いつもこの季節は焦る。近所では荷物をたくさん抱えた小学生が歩き、駅に花束を持った学生が集まっている。学校が終わって、また始まる季節やなあ、と自分には遠くなった時間を眺めていると、学校に行きたい、と思う。
学校的なところに行って、勉強がしたい。興味があることを、じっくり落ち着いて考えたい。体系的な知識のある人の話を聞きたい。わたしの知らない膨大なことを、自分が考えてもなかった視点で教わりたい。毎年のようにそう思って、しかし仕事が落ち着く暇もなく、実現しないままだ。
大学を卒業して会社に就職してしばらくと、その会社を辞めてしばらくと、修学旅行や学校で生活する夢を何度も見た。目が覚めるたび、そんなに学校に行きたいのやろうかと、自分で笑ってしまった。学校に行くのがつらいときもあったし、人間関係の難しいことや思い出したくないこともたくさんあったのに、学校で勉強をするという形式というか時間自体はずっと好きだった。
環境が変わって、特に会社を辞めてからは基本的に誰にも会わずに、ひたすら自分で仕事に向かわなければならない生活なので、行くと授業があって、話せる人がいる場所が懐かしかったのだろう。
今はさすがに修学旅行や学校の夢はほとんど見ないけど、学校に通いたい、勉強したい、という気持ちだけはずっとある。三日坊主ぶりには自信があるので、英会話学校も続かなかったのだが、それでも「もうこの年齢だし」「自分にはできないし」と思ったらそこでもう進めなくなるので、願望だけは持ち続けることにした。
そして新しい生活を始める人をたくさん見かけるこの時期は、気持ちだけじゃなくてなにかやってみないとな、と背中を押されるよい季節だ。=朝日新聞2019年4月3日掲載
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