「あの小説をたべたい」は、好書好日編集部が小説に登場するごはんやおやつを料理し、食べることで、その物語のエッセンスを取り込み、小説の世界観を皆さんと共有する記録です。
今回シェアするのは、群ようこ『かもめ食堂』。小林聡美さん、片桐はいりさん、もたいまさこさんらが出演した映画のために書き下ろされた作品です。
舞台はフィンランド、ヘルシンキ。宝くじを当てたアラフォーのサチエは、単身でフィンランドに渡り、「かもめ食堂」という名の食堂を開きます。ところが、お客さんといえば日本オタクの青年、トンミくんだけ。そんなある日、サチエはワケありげな日本人女性、ミドリとマサコに出会い、3人で食堂を切り盛りしていくことに。それぞれに事情を抱えた人たちと様々なハプニングに遭遇しながらも、ゆるやかに過ぎていく日々を描いた物語です。
「フィンランド」を食べる
当初はなかなかお客さんがやってこない「かもめ食堂」ですが、近所の人たちはその存在が気になって仕方がない様子。サチエが小柄で若く見えるので「かもめ食堂」ではなく「こども食堂」と呼び、外から食堂の中をうかがっては報告しあうほど「かもめ食堂」に興味津々です。
そんな“偵察隊”と化したご近所さんが、初めて「かもめ食堂」にやってきた時に食したシナモンロールを作ってみました。
彼女たちはメニューも見ずに、コーヒー、紅茶、シナモンロールと注文した。
シナモンロールはフィンランドのカフェメニューの定番。フィンランド語では「コルヴァプースティ(KORVAPUUSTI)」といい、なんと「平手打ちされた耳」という意味なんだとか。
映画でもシナモンロール作りは印象的な場面でしたが、よくよく見てみると、この「平手打ちされた耳」の形にすべく、成形の仕上げの際に小指を横にして軽く押し当てているのがわかります。というわけで、今回もその伝統的な形を再現してみました。
「あの子供はすごいわね。フィン語もしゃべれるし、店で出すパンも自分で焼いているんですって。おまけにこれ、とってもおいしいわ」と口々に言い合った。
食べると外側はカリカリ、中はふわっとした食感で、シナモンとカルダモンの香りが口いっぱいに広がります。コーヒーも豆から挽いて、じっくりドリップ。手作りのシナモンロールとドリップコーヒーの組み合わせは、ゆるやかな時間を過ごすにはうってつけでした。