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雨の日にじっくり読みたい三冊 書評家・大矢博子

大矢博子が薦める文庫この新刊!

  1. 『明治乙女物語』 滝沢志郎著 文春文庫 864円
  2. 『空に牡丹』 大島真寿美著 小学館文庫 788円
  3. 『三鬼 三島屋変調百物語四之続』 宮部みゆき著 角川文庫 1037円

 梅雨こそ読書にうってつけの季節。雨の日にじっくり読みたい三冊をご紹介。

 (1)鹿鳴館の時代。高等師範学校女子部(女高師)の講堂で、文部大臣森有礼肝いりの舞踏会が催された。ところがその最中に校庭で爆弾が炸裂(さくれつ)。女学生の咲は犯人捜しに乗り出す。男尊女卑の時代に自分の人生を切り開こうとする女学生たちの痛みと勇気を描いたみずみずしい青春小説。明治の空気の中に現代に通じるテーマが込められている。実在の人物たちの使い方に工夫があり、見事だ。

 (2)こちらも明治の物語。地主の息子に生まれた静助は、隅田川で見た花火に心を奪われる。財産をつぎ込んで花火作りに没頭する静助。周囲の人が時代の荒波に巻き込まれていく中、彼はひたすら花火を作り続ける……。歴史を動かした側ではなく、巻き込まれる普通の人々の姿が活写されている。現代に生きる「わたし」が先祖の話を書くという設定で、市井の人々の歴史を語り継いでいくことの大切さが伝わる作品。

 (3)江戸・神田にある袋物屋の三島屋では、姪(めい)のおちかが市井の人々から不思議な話・怪異な話を聞き集めている――変わり百物語のシリーズ第四弾だ。今回は亡者が集う家や寒村に出る鬼など四編を収録。宮部怪談の特徴は、悲しみや切なさが残ること。怪異を生んだ人の心の闇を描き、それを主人公と周囲の人々の優しさで包み込む。だから悲しいだけでなく、ぬくもりがある。名手の世界に浸りつつ、自分の中に怪異の種はないか、雨の日に振り返るも一興。=朝日新聞2019年6月29日掲載