ISBN: 9784000613422
発売⽇: 2019/05/31
サイズ: 20cm/256p
ISBN: 9784103526810
発売⽇: 2019/06/21
サイズ: 20cm/252p
女たちのテロル/ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー [著]プレイディみかこ
人権って、急に手に入ったわけじゃないのよね。いろんな場所で迫害と闘った人がいたわけ。
1913年6月、エミリー・デイヴィソンは女性社会政治同盟(WSPU)の旗を手に競馬場に現れ、国王の馬に跳ね飛ばされて4日後に死んだ。彼女は武闘派のサフラジェット(女性参政権活動家)で逮捕されるたびに拷問に耐えた。「マッド・エミリー」の異名をとるヤバイ女性だった。
ヤバさじゃ、この人も負けてない。1916年4月、マーガレット・スキニダーはアイルランドの独立を求めるイースター蜂起に参加し、3発の銃弾を受けて重傷を負った。数学の教師だった彼女は爆発物に詳しく射撃にも秀でた凄腕のスナイパーだった。
ヤバイ女性は日本にもいた。1923年9月、関東大震災の2日後、金子文子は同棲相手の朝鮮人・朴烈とともに警察に検束された。彼女は絶望的な貧困と虐待の中で育ち、朴と不逞(ふてい)社なる結社を立ち上げた。3年後、獄中で謎の死をとげた。23歳だった。
『女たちのテロル』は、以上3人の女性をシャッフルするような形で紹介した異色の評伝的なエッセイである。3人とも教科書に載るような「偉人」ではない。あえて共通点を探せば、国家権力に逆らったことと、あくまでもわが道を行こうとしたことだろう。
〈「マッド・エミリー」でいるだけではダメなのだ。女性の権利を勝ち取るには、何かもっと本質的な、究極的なやり方で人々に訴えなければならない〉とエミリーは考える。100年前には、英国にも日本にも人権なんかろくになかった。彼女たちの無鉄砲なふるまいはギリッギリの選択だった。
それじゃ現代は?
〈日本に行けば『ガイジン』って言われるし、こっちでは『チンク』とか言われる〉と少年はブーたれる。彼はブレイディみかこの息子である。日本人の母とアイルランド人の父を持ち、英国ブライトンの中学校に入ったばかりだ。チンクは中国人の蔑称である。
肌の色だけではない。英国でも経済格差は広がっていて、学食で万引きする子や制服が買えない子がいる。少年のそんな複雑な日常を『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』はどこまでも軽やかにつづっていく。
多様性はいいことだと学校で教わってきた少年に、でも多様性は楽じゃないと母はふっかける。〈「楽じゃないものが、どうしていいの?」/「楽ばっかりしてると、無知になるから」〉
2冊に通底するのは「俺たちはマージナライズド(周縁の人)」な気分だろう。エミリーたちにも聞かせたい、少年が友達と作ったラップの歌詞の一部である。
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Mikako Brady 1965年生まれ。保育士、ライター、コラムニスト。96年から、英国ブライトン在住。『子どもたちの階級闘争』で、新潮ドキュメント賞。『アナキズム・イン・ザ・UK』『THIS IS JAPAN』など。