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書評家・杉江松恋が薦める 奇想に満ちたミステリーの新刊文庫3冊

杉江松恋が薦める文庫この新刊!

  1. 『勘違い 渡良瀬探偵事務所・十五代目の活躍』 猫森夏希著 宝島社文庫 734円
  2. 『血染めの旅籠 月影兵庫ミステリ傑作選』 南條範夫著 末國善己編 創元推理文庫 1404円
  3. 『潤みと翳(かげ)り』 ジェイン・ハーパー著 青木創訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1318円

 (1)小学校最後の夏休み、八尋竜一は級友の渡良瀬良平と親しくなる。渡良瀬は、江戸時代から続く古い探偵事務所の跡取りだったのだ。中学1年になった2人は、八尋の祖父が公園で頭を強打されて意識を失うという事件に遭遇する。
 九州の静かな町を舞台にした本編は、設定だけだと平凡な青春ミステリーに見える。しかし後半から重い問題が浮上し、最後は思わぬところに物語が着地する。作者のデビュー作であり、特殊能力者の唐突な登場など、設定の甘さに不満もあるが、読者を驚かせたいという意欲に満ちている点は評価したい。次は何を書いてくれるだろうか。

 (2)はかつて近衛十四郎主演でTVドラマ化されて人気を博した時代小説である。気ままな素浪人が旅の途中などで遭遇する怪事件を解決していくさまを描いており、凶器トリックがおもしろい「通り魔嫌疑」、サスペンス色の強い「大名の失踪」など、各話が奇想に満ちている。謎解きはアイデア頼りで論理性が薄いが、主人公のさわやかなキャラクターが楽しく、退屈せずに読めるはずだ。

 (3)はオーストラリア発の警察小説である。企業の研修のため山に入っていた女性が森の中で消えた。連邦警察官のアーロン・フォークの携帯電話には、彼女から謎のボイスメールが送られていたのである。
 森で何が起きたのか。その謎を解きつつ、フォークたちは前途を阻むオーストラリアの大自然とも闘わなければいけない。冒険小説の要素も兼ね備えた読み応えある逸品だ。=朝日新聞2019年8月24日掲載