人生初、はとバスに乗りました。
家族３人で東京を訪れる中、夫婦２人で過ごす時間が半日できたため、一度、試してみようということになったのです。気分は修学旅行。入門編と言えるような「東京半日（Ａ）コース」に申し込みました。
午後１時、東京駅を出発です。
まずは皇居に行き、二重橋を見学します。「東京だョおっ母さん」を口ずさんだのも束（つか）の間、乗客は半数以上が外国の方で、エンペラーズハウス、などと聞こえてくると、東京観光というよりも、日本観光をしているような気分になってきました。
記念撮影をする人たちのシャッターを押してあげていると、代わりますよ、と言われ、少しばかり固まってしまいました。夫婦２人で写真を撮るのは、新婚旅行以来です。断るのもおかしいので、お願いしたものの、微妙な距離が空いた、何とも言い難い一枚となりました。とりあえず、まだ保存しています。
次に、浅草寺に行きました。周辺の店で射的をしたところ、５発中、私は全滅、旦那さんは２発も当てました。新婚時代なら、まあステキ、と思えたでしょうが、２０年経つと、込み上げてくるのは、悔しさばかりです。
それでも、楽しく団子を食べたり土産物を見たりしていると、ふと、子どもが受験生であることを思い出し、遊んでいる場合ではないと、あわてて合格祈願をして、浅草を後にしました。
最後は東京タワーです。夫婦揃（そろ）って高い所が好きなので、透明な床の上で大はしゃぎしてから、土産物売り場へ。花魁（おいらん）のイラストのＴシャツがほしい、と言う旦那さんに、眉をひそめることなく、いいじゃん、似合いそうじゃん、と寛大な気持ちで答えることができました。
午後６時、ガイドさんの歌を聞きながら、東京駅に到着です。楽しかった。本当に楽しかった。自分の親も旦那さんの親も、みんな連れてきて、また乗れば、最高の親孝行ができるような気がします。＝朝日新聞2019年9月4日掲載
