「とにかく自分を信じろ」という瞬間がときどきある。最近だと、小さい付箋(ふせん)を作っている時だ。
小さい付箋は、本を読んで感想を書く仕事をしている時にときどき要る。基本的には、ページ数と要点を書いたメモを作るのが最善なのだけれども、本の厚さに対して読む時間数がギリギリであると予想される場合は付箋を使う。植字に重ならないように、要点の記述がある行の真上の余白に貼る。以前は、普通の付箋を貼って、はみ出た部分をはさみで切っていた。でもそれだと切り口が斜めになったり、付箋の糊(のり)が付いている箇所を残したままになって埃(ほこり)を拾って汚くなったりするので、あらかじめ1・2センチ長の付箋を作って貼るようになった。このサイズは、某文庫の上部余白に合わせている。
付箋の糊が付いている側の端から1・2センチを計って切るだけならそんなに厳しい作業でもないのだが、問題は、糊が付いている範囲が1・2センチを越えている場合で、その時は、糊のある側とない側の二箇所を切らなければならない。
手持ちの幅1・5センチの付箋束に直角に定規を当ててカッターナイフを動かすのは、実は結構辛い。段差で定規が不安定で、且(か)つ切り始めと終わりがちゃんと切れているかわからない。この時の不安を緩和するために「とにかくカッターを動かし続けたらいつか付箋は切れる。自分を信じろ」と自分に言い聞かせ始めた。こんなことでかと思う。でも、そうし始めてからこの小さい付箋を作る作業が少し楽になった。
先に色が付いた透明な小さい付箋なんていくらでも売ってるだろうといわれるかもしれないけれども、糊の部分に本のインクが移る気がするのと、一生分ぐらい1・5センチ幅の付箋を持っているので、そういう鈍くさいことをやっている。
「自分を信じろ」は、じゃがいもやにんじんに千切りピーラーを当てている時もよく思っている。途方もなく思えるが、この作業はいつか終わる。自分を信じて手を動かせ。=朝日新聞2026年7月29日掲載