会い続けて16年。ようやく動き出した絵本作り
――『ありのこ りーこ』は、16年越しで実現したと聞きました。出版のきっかけは?
麦田:秋山さんとは、もともと著者と担当編集というおつきあいで、「みつばちみつひめ」のシリーズを一緒に作らせていただきました。私は秋山さんの作品の大ファンなので、その後も次の絵本を出すべく、定期的にお会いして打ち合わせをしていたのですが、なかなかお話がまとまらず、気づいたら10年くらい経ってしまって。
秋山さんと会うと、嬉しくなっちゃって、全然仕事と関係ない話ばかりしちゃうんです。代々木公園を歩きながら、喋りまくって、仕事は1ミリも進まないまま、大満足して帰ってきちゃったり。ダメ編集者の極みですね(笑)。
秋山:ずっと会ってましたよね。私も麦田さんと会うと楽しくなっちゃって、関係ないよもやま話ばっかりしてました。ダメダメですねえ(笑)。
麦田:さすがに10年が過ぎたころから、「このままじゃ本当に出ないぞ」と焦り始めて……。大きく前に進める必要がある、と意を決して、オンラインでストーリーについてまじめに話し合いをしました。
秋山:そしてすぐに、麦田さんがテキストを送ってくださったんです。麦田さんの文章が本当に素晴らしくて。軽やかで、おかしみがあって、私の好みのど真ん中だったんです。すっと絵が浮かんで、それでやっと描くことができました。
麦田: 編集者から書き手に回るという、イレギュラーな展開になりましたが、秋山作品に惚れ込んでいる者として、なんとか秋山さんの新作を生み出したという気持ちでした。
子どもが受け入れられていく様子を描きたかった
――女王ありのお母さんが、たくさんたまごを産んで、家じゅうが大忙しになり、いつもはあそんでくれるお姉さんたちもりーこをかまってあげられないという設定も、ありならではでおもしろいですね。ちょっとさびしくなったりーこが、外の世界へ出かけていくところから物語が始まっています。お話には、ご自身の子育て経験などを反映されているのですか?
麦田: 育児を通じて、たくさんの小さな子どもを見ていたので、子どもが持っている自然な子どもらしさを出せたらいいなと思いました。あれくらいの年齢の子が持っている、傍若無人さとか、忖度のなさってかわいいじゃないですか。りーこが、まわりの大人たちに優しくされようと、じわじわ話を盛っていく感じとか、それをそしらぬふりで受け入れてあげる大人たちがいる空間を表現できたらいいなあと。
――子どもにとって安心できる、幸せの空間ですね。最後にりーこのお世話をしてくれるシジミチョウの邸宅は、お姫さま扱いしてくれる憧れの家でした。
秋山:シジミチョウは「素敵なマダム」という設定はいただいたのですが、どんな服を着せるか悩んで、いろいろなマダムを描いてみました。決定した、イギリスのヴィクトリア朝のマダムなら、19世紀末英国風の暮らしをしているに違いないと考えて、その時代の家具や調度品などが載っている本を何冊も読んだり、当時食べられていたお菓子を調べて実際に焼いてみたり、暮らしぶりを描くのに試行錯誤しました。
――時代考証や食べ物まで細かく検証されるなんてすごいですね。
秋山:科学絵本のお仕事をいただいた時、細部まで検証し正確に描くことの大切さを学び、気をつけるようになりました。お話に登場する昆虫のサイズの比率も意識しているのですが、りーこのサイズによっては、他の虫が画面に入りきらなくなってしまう。シジミチョウはこれでも7割ぐらいにとどめているんです。
子どもを育てる人には、問答無用で優しくしたい
――素敵なマダムはどういうイメージで選ばれたのですか?
麦田: 子どもの頃、よそのお宅にお邪魔すると、ピアノにレースがかかっていたり、ケーキと紅茶が出てきて、優雅さにドキドキしたりしませんでした? あのよそいき空間の感じを出せたらいいなと思いました。実際に育児をしていると、優雅さとは一切かけ離れた日常になりますが、たまに遊びに行く叔母の家や、子どもと遊んでくれる友人の余裕たっぷりの優しさに救われたことが何度もあって。そうした「ちょっと生活の外側にいる人」の優しさ、優雅さを入れたい気持ちがありました。
――りーこは、そのマダムがせっかく焼いてくれたクッキーを、食べずに帰ってしまうという自由な感じがいいですね。おおらかな大人に見守られて、すくすくと育っている感じが伝わってきます。
麦田: りーこはどこまでも自由なんです(笑)。秋山さんの絵は完璧で、ラフが上がるたび至福だったのですが、ラストシーンだけは、部屋がきれいに整った状態ではなく、いろいろ散らかしまくったまま寝落ちしている感じに修正していただきました。秋山さんも「その方がずっといいですね」と快く直して下さって。
麦田:私は、産後調子を崩して、外に出られない状態が長く続いた時期があったんです。その間は、まわりの人が、子どもに惜しみなく愛情を注いでくれ、子どもは元気に育ってくれました。あの時のありがたさがあるので、私も子どもを育てている人には、問答無用で優しくできる人間になりたいなと。秋山さんの優しさが宿った、りーこの絵を眺めていると、しみじみそんな風に思います。