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青木野枝作品集「流れのなかにひかりのかたまり」 空間と線からなる彫刻の斬新さ

『流れのなかにひかりのかたまり』から

 美術作品を、鑑賞という行為のみによって理解するのはかなり難しいことだ。彫刻家、青木野枝の作品集である本書を繰ると、ドキュメンタリー・フィルムを鑑賞したような錯覚に陥り、彫刻とは縁がない人もきっと、彼女の作った「実物」を見たいと思うだろう。

 一九八一年から今年までに制作された彫刻、アトリエでの制作風景や設営風景、スケッチブックなどを捉えた写真の合間を縫うように、作家自身の言葉が挟まれる。そこから垣間見えるのは、制作を生きる手がかりと考え、だからこそ作り続けるしかない一人の美術作家の切実で真摯(しんし)な姿だ。音楽家の寺尾紗穂によるエッセイも美しい。鉄、大きな作品というと男性の領域と結びつけられがちだが、青木はその先入観を軽々飛び越える。その様式に私達がもはや疑問さえ抱かない、空間と線からなる青木の彫刻がいかに斬新であったかも、学芸員の神山亮子によって明かされる。読後は、生きるということがただただ輝いてみえてくる。=朝日新聞2019年11月2日掲載