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フルポン村上の選句修行 「バチェラーの気分で」選んだ3句を発表!

「天地人」の発表はこちら! 村上さんセレクトの賞品もお楽しみに※一部加工(動画撮影:佐藤正人)

フルポン村上さんと担当編集の反省会

――228句の応募がありました。どれもめちゃくちゃうまくて、手練ればかりな印象でした。

 これをきっかけにやってみました、って句はほとんどなかったですよね。正直、思ってたよりもみんなやれてるからびっくりして、逆にまいったなと思っちゃいました。どれを選んでも「それ選ぶんかい」ってならないな、と思って。

――たくさんの中から選句しようとすると、どうしても「目立つ句」に目がいってしまうと思うんですが、どうやって選んでいったんですか?

 最初一読して、目立つっていうよりは僕がもともと持ってる何かをちょっとサササってハートタッチングしてくれたものが気になりました。やっぱり(恋愛バラエティーショーの)「バチェラー」みたいなもので、最初に気になった句はやっぱりもう一回読み返しても気になっちゃって、そうすると分からなくなってくるんですよ。最後の方、もうどれでもいいからくじで選ぼうかな、と思っちゃうくらい。最初にいいなと思ったけど選ばなかった時に後で後悔するかも、とか恋心みたいになっちゃって。

 句会だといろんな人が選ぶから、作った句が報われる確率が高いじゃないですか。今回の場合は200句以上の中から僕が3つだけ選ぶっていう責任感が重荷になってきて、自由に選べてないんじゃないかとか、ちゃんと自分の意見で選べてるのかなとか、これを選んだ僕がどう思われるか気にしてないかとか、余計なこと考えちゃって、結局いろいろ考えたら「なんか好きですー」「この俳句をテーマになんかエッセー書けそう」ってものを選びました。この俳句が1行目にあって、その後に続く文章が自分の中で作れそうなものを選んだな、って感覚はありますね。

――選んでいただいた3句のほかに気になった句はありましたか?

 僕が勘違いしてていいなと思ったのが「黄落や前世を喋る子の旋毛(つむじ)」(茶兎丸)。これ自体もいいんですけど、最初「前世」を勘違いして「胎内記憶」だと思って、すごいおもしろいなと思ったんです。お母さんが子どもに「おなかの中どうだった?」って聞いてる感じがおもしろいなと思って。胎内記憶は今度どっかで使おうかな。

 「こんぺいとうの角に勝ち目や秋小寒」(蟻馬次朗)は金平糖の角がとがってることが金平糖というものの存在価値なのか、よく分からなかったんですけど、いいなと思っちゃって。「勧誘のひとの瞳孔地虫鳴く」(青山酔鳴)も、勧誘の人の目に着目するのがおもしろいなと。そういう「ここに着目するんだ!」って思って取っちゃってる句が多いですね。あと「饒舌な女の伏し目落葉宿」(ラーラ)っていう句も、そういうのあるなーと思って。意外とよくしゃべる人ほど、ふとした暗い一面があるみたいな。「葱の汁つたう手首の甘かりき」(西藤智)もよかったですね。「葱の汁つたう手首」って言われた瞬間にちょっとゾクっとするっていう。

 気になる句でいったらいっぱいあるんですけど、どういうことか分からなかったけどよさそうだったのは、「涙ふく手は脳へ焼く栗ごはん」(酒井おかわり)。よかったけど僕の知ってる光景とは結びつかなかったのが「秋の声墨の粒子を溶かす指」(安)。あと「やけに黒い鎖骨のほくろ曼珠沙華」(豆田こまめ)。季語と合ってるかちょっとピンとこないんですけど、1個のほくろをやけに黒いなって思うことってあるなって(笑)。曼珠沙華をこの人の中でどう効かせてるのかな。だいぶ特徴あるんで、ほかの花と比べたら気になる花ではあるんですけどね。花とかじゃなくて、コートとか生活の季語の方がよりよくなる気がするけど、そうするとおもしろみが減るのかな。「目も鼻もへいたんにして日記買う」(内橋可奈子)もいいなと思ったんですけど。「日記買う」が季語ですよね。

――わたしは「クーラーの風に釈迦めく母の顔」(凡鑽)とか「マネキンの眦(まなじり)に修羅そぞろ寒」(ゆうこりん)が、自分では作れない感じの句なのでおもしろかったです。「結婚線三つの人と今年酒」(多喰身・デラックス)とか「喉仏ばかり見ていた初喧嘩」(雷紋)は、「上半身の一部」で手相とか喉仏できたかーと。

 「結婚線」は確かによかったですね。でも自分が上半身をテーマにって決めた後に、(出演している)短歌の番組のテーマが「体の一部を入れる」ってなって、その時に手相の歌を作ったから逆に手相で新しいって思えなかったかもしれないですね。「初喧嘩」も短歌作ってた時に喉仏を使ってたから・・・・・・。

 本当に、だから困っちゃったんですよ。たぶん、また来月これで違うの選べって言われたら全然違う3句になった可能性はあるんです。選んだときの気分と体調とで申し訳なかったなっていう。選ばれなかった人が劣ってるってわけではまったくない、ってことは強く言いたいです。

――「人」で選んだ「月熟れて仄かに口のなか甘し」(奈良香里)の「月熟れて」がわたしはよく分からなかったんですが、これはどういう鑑賞ですか?

 「月熟れて」は月が熟れることはないけど、でも「満ちる」ではつまらないと思うんです。例えばこのときの月が熟れてるって受け取り方じゃなくて、その人にとっての今日の月は熟れているっていう風に、「今日の月いいな」っていう感じを「熟れてる」って僕は感じたんです。月って毎日見ないじゃないですか。でもたまに見るとすごいきれいじゃないですか。月見てるときは、僕の中ではずっと熟れてるのかなって思ってるんですけど。「今日の月しょぼいわ」ってときはあんまりないんで。そういう意味では月ってずっと熟れてるって思っちゃいますけどね。

――3句のどれを天地人にするかギリギリまで迷っていらっしゃいましたけど、差ってどういうところだったんですか?

 本当に分からないです。選ぶ資格ないんです、分からないんです。本当にバチェラーの気分です。今回、バチェラーだと思ってるんです自分が。みんな好きなんですよ。

 もうちょっとみんなと向き合いたかったです。1回目で一人(の女性)を選んでるようなもんなんで、10回くらい経ないと。いいのを選ぶんじゃなくて、「ごめんなさい」っていうのを減らしていきたかったです、10回の中で。それで最後1位を決めるっていう。

――わたしの反省は、シンプルに季語をテーマにして、初心者の方ももっと気軽に参加できるとよかったのかなと・・・・・・。でもツイッターでみなさんのプロフィールを少し見ることができて、こういう人たちが連載を読んでくれてるのかっていうことが分かってうれしかったです。2回目があればぜひまたやりましょう!