「かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた」書評 無名の黒人興行師の波乱の一生
評者: 長谷川眞理子
/ 朝⽇新聞掲載:2019年12月07日
かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた 二つの帝国を渡り歩いた黒人興行師フレデリックの生涯
著者:ウラジーミル・アレクサンドロフ
出版社:白水社
ジャンル:伝記
ISBN: 9784560097229
発売⽇: 2019/09/27
サイズ: 19cm/323,43p
かくしてモスクワの夜はつくられ、ジャズはトルコにもたらされた [著]V・アレクサンドロフ
フレデリック・ブルース・トーマスという黒人がいた。1872年生まれ。アメリカ南部の黒人解放奴隷の子どもとして生まれ、父親を惨殺されたあと、18歳で家を出る。シカゴ、ニューヨーク、そして、欧州に渡り、高級ホテルのベルボーイや給仕として研鑽を積み、エンターテインメントの世界に足を踏み入れていく。
20世紀初頭のモスクワで、アクアリウム庭園という遊びの場を演出し、富を築くが、ロシア革命でオデッサからトルコへと逃げる。この事件ですべてを失っても、トーマスはあきらめない。コンスタンティノープルで、人々の娯楽にジャズを導入し、またもや大成功を収める。欧州では、黒人差別はそれほどでもなかった。それにしても波瀾万丈の生涯。何があっても七転び八起きの精神には脱帽するほかない。
この無名の黒人興行師を発掘し、これほどの読み物に仕立て上げた著者にも脱帽である。