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中国ミレニアル世代が牽引する新時代のポップカルチャー 小山ひとみさん「中国新世代」インタビュー

文:篠原諄也 写真:北原千恵美

中国で生活する人の「生の声」を

――中国のミレニアル世代の生き方に着目したのはなぜでしょう?

 最近、ITやビジネスの分野の中国関連の本は増えています。でも中国で生活している人たちの生の声を伝えた本がないなと思ったんです。一体どんな価値観を持っていて、どんな事が好きなのかを紹介したいと思いました。

 特に今は全世界的にミレニアル世代は経済力があって、カルチャーを引っ張る世代だと言われていますが、中国は何が凄いかというと人数が半端ないことです。ミレニアル世代だけで約4億人もいるんですよ。

――日本の人口の3倍近くもいるんですか。中国のミレニアル世代の特徴は「インディビジュアライゼーション(個人化)」だそうですね。

 中国の若者やユースカルチャーの研究者、チャン・アンディンが指摘していることですね。親世代は国から与えられた仕事に就いて、住居も支給されていました。つまり、国が用意した人生を歩んできた人たちでした。それと比べるとミレニアル世代は全部自分で決めないといけません。(1978年の改革開放による市場経済への移行のため)親世代よりも圧倒的に多くのチャンス(選択肢)が出てきました。個に向き合わないといけない世代なんです。

 だから親とのギャップが凄く生まれます。例えば親世代は20代で結婚するのが当たり前だったのに、今の子たちは海外の情報もネットで見ていて価値観が多様化しているので「結婚は別に30代になってもいいじゃん」と思う。そうしたギャップは日本以上にあると思います。

 また「ミレニアル世代」の特徴は比較的時間とお金があることです。一人っ子政策の世代なので、親は一人の子を可愛がります。さらにおじいちゃんとおばあちゃんも合わせると、合計6人からお金と愛情を注がれる。特に大都市の子たちはお金も時間も余裕があって、海外留学をする子も多いですね。

――恵まれた環境の人が多いと。

 ただそれでいいかというとそうではなくて、人口が多い分優秀な子が多いから競争が凄いんです。本で紹介したジン・ティエンファンさんは、ニューヨークのパーソンズ美術大学の大学院でファッションを勉強した後に、友人と二人でブランド「Random Clichés(ランダム・クリーシェズ)」を立ち上げました。彼女は「他とは違う何かをやらなきゃ」と苦しみながら、服だけではなくアート的な要素を入れた家具のプロダクトデザインをしたりしています。でも欧米に留学した新しい子たちがどんどん帰国してくるので「危機感を感じる」と話していました。「自分たちもウカウカしていられない」と。

「Random Clichés」がブランドとして初めて開催した展示(小山ひとみさん提供)

――周りとの競争が激しいのですね。本書ではアイドルのオーディション番組も取り上げられていました。

 2018年にオンラインプラットフォーム「iQIYI (アイチーイー)」でアイドルバトル番組「Idol Producer」がヒットして「中国アイドル元年」と言われました。2019年にはシーズン2が放送され、他のプラットフォームでも似た番組が放送されて「アイドル戦国時代」が到来しました。今は毎日のようにアイドルが誕生しています。

 そうしたアイドル番組の他にもラップ番組やストリートダンス番組もヒットしているんですが、面白いのはどれもバトル番組なんですよね。競争して「努力した人が報われる」と言いたいというか。「Idol Producer」のシーズン2のスローガンも「努力すれば優秀になれる」でした。そこには「青少年を育成する」というメッセージも込められています。

アイドルバトル番組「Idol Producer」から(iQIYI提供)

「本気度が違う」アイドルの競争

――アイドルのオーディション番組は中国各地の「アイドル村」のような場所で合宿生活をしながら収録されているそうですね。

 2019年の4月に北京からバスで1時間ほどの河北省の街で取材しました。敷地内には巨大な体育館みたいな建物がいくつもあり、ステージや宿泊場所になっていました。アイドル練習生が唯一買い物できるコンビニもあります。

 中国全土から追っかけの若いファンが来ていて、チケットを高値で売るダフ屋もいっぱいいます。ファンは朝早くから会場に来て、少しでも「推しメン」を見ようとする。テントで寝泊まりするファンもいたそうです。

アイドル村の風景(小山ひとみさん提供)

――ファンの人たちは何を求めているのでしょう?

 ひとつは自分が叶えられない夢を託すことがあると思います。今、中国の芸能界の中でも相当人気のあるヤン・チャオユエというアイドルの子がいます。「Tencent Video」の女性アイドルのオーディション番組『PRODUCE 101(創造101)』でトップ3でデビューしました。

 彼女は江蘇省の農村の出身なんですよね。ご両親が離婚して、お父さんと二人暮らしをしていました。田舎で貧しい生活を送っていて、中学卒業後は工場やレストランで働いていたんです。彼女が所属する「火箭少女101(ロケット・ガールズ101)」には、韓国留学をしてアイドルになるレッスンを受けたエリートのメンバーもいますが、彼女はそうしたレッスンなど受けられる環境になかった。だから番組では歌は音痴だし、ダンスも間違えていました。でも、下手でありながらも一生懸命に練習を続ける姿が評価された。特に田舎の出身の若い子が彼女を応援するようになりました。自分ができないことを彼女に託す思いがあったと思います。

――日本のアイドルと違いを感じますか?

 本気度が違う気がします。人生を懸けている。裕福な家庭の子もいるんですけど、地方の貧しい家庭の子もいて「これがダメだったら、田舎に帰って農家を継ぐしか道がないんだ」と話す子もいます。「俺がアイドルになって一家を支えないといけない」と。番組の家族と電話するシーンでは皆泣いたりして、見ていて感動しますね。

――競争の裏に格差があるんですね。

 アイドルになるかならないかで雲泥の差なんです。家も買えるし、家族を養ってあげられる。でもなれたらなれたで、アイドルの数が多いから競争は凄い。必死に努力しているのを感じます。日本のアイドルと比べても皆歌やダンスが凄くうまいと思います。

――かつてと比べると、国内でコンテンツやモノを作って消費するようになっているのでしょうか?

 国内のコンテンツを見ている人が増えているように思いますね。ファッションをはじめとしたどの分野でも言えますが、自分たちの国に誇りを持ち出しているなと感じます。特に90年代生まれ以降の子たちがそうですね。つまり「メイド・イン・チャイナは粗悪品」を知らない世代です。80年代生まれの子たちは、親から聞かされたり自分自身も使っていたから、中国製によくないイメージがあるけれど、90年代生まれの子たちは「え、中国製って品質が高くてクールじゃん!」と思っている。確かにファッションブランドは品質もデザイン性もよくなっているんですね。

――「おわりに」では「ご自分の目でそのリアルを見て欲しい」と書いていました。やはり中国に実際に行ってみてほしいですか?

 行くと絶対何か発見があるし「こんなに勢いがあるのか!」とびっくりすると思います。私の中国語のできない知り合いも最近初めて中国に行って「住んでみたい」と話していました。今は全部のジャンルが元気があってスピード感が凄い。これからはZ世代(90年代後半〜2000年代生まれ)の子たちがどんどん新しいコンテンツを作っていくはずです。実際に目で見てもらいたいですね。