「意識と感覚のない世界」書評 麻酔科医の上手下手とは
評者: いとうせいこう
/ 朝⽇新聞掲載:2020年02月08日
意識と感覚のない世界 実のところ、麻酔科医は何をしているのか
著者:ヘンリー・ジェイ・プリスビロー
出版社:みすず書房
ジャンル:医学
ISBN: 9784622088660
発売⽇: 2019/12/18
サイズ: 20cm/215p
意識と感覚のない世界 実のところ、麻酔科医は何をしているのか [著]ヘンリー・ジェイ・プリスビロー
子供の頃、全身麻酔を受けたことがある。外科手術ではなく、患部から水を抜く施術のためだ。
確か数字を言わされているうち、母親の映像がぐるぐる回りながら遠ざかっていき、私は意識を失った。
麻酔薬の量が多かったらしく、私はなかなか目を覚まさなかったため、両親はとても心配したらしい。
この本を読むと、私を担当した麻酔科医の腕が疑われる。彼らは私の意識を完全に消さねばならず、〝母親の映像がぐるぐる回りながら遠ざかる〟などあってはならなかったのではないか。術後に恐怖が残るからだ。確かに私はあの時のことを忘れられずにいる。
手術や入院をして医師の評判は気にしても、私たちはなかなか麻酔科医の上手下手を語らない。しかしペインクリニックは世界の主流である。メンタルな苦痛もそこには入っている。
本書を読むと麻酔科医の仕事がわかり、きちんと評価したくなる。縁の下の力持ちに光を当てたくなる。