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「茶匠と探偵」書評 知性持つ宇宙船が難事件に挑む

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月15日
茶匠と探偵 (The Universe of Xuya Collection) 著者:大島豊 出版社:竹書房 ジャンル:小説

ISBN: 9784801920385
発売⽇: 2019/11/28
サイズ: 20cm/407p

茶匠(ちゃしょう)と探偵 [著]アリエット・ド・ボダール

 本書は、新鋭のSF作家ボダールの中短編の中から、訳者が9編を選んだ初の邦訳作品集だ。
 それぞれの作品は独立した物語で、相互の関連性は基本的にない。ただしシュヤ宇宙という、私たちが住む宇宙と似ているようで異なる世界観を共有している。本書収録の「蝶々(ちょうちょう)、黎明(れいめい)に墜(お)ちて」は地球を舞台にしているが、私たちの地球とは異なる歴史をたどっている。他の作品はより未来の話で、人類は宇宙に進出し、ベトナム文化を基盤にした大越帝国が主な舞台になっている。
 生体と機械の融合やバーチャル・リアリティなどの道具立ては、現代SFおなじみと言って良い。特徴的なのは、人格と知性を持つ宇宙船である「有魂船」だろう。宇宙船を制御する「胆魂(マインド)」は科学的に設計されるが、一度人間の女性の子宮に入れられ、胎内で成長し産み出される。表題作は、元軍艦で現在は茶を調合している宇宙船が麻薬中毒の探偵と共に「深宇宙」で起きた難事件に挑む話だ。
 舞台設定や登場人物の属性・状況に関する説明が意図的に小出しに行われるので(これまたSFでは良く使われる手法である)最初はとっつきにくいが、読み進めていくと緻密な構成にうならされる。ベトナム人の母を持つ作者ならではの東洋的な世界観も魅力だ。
 作者はソフトウェア・エンジニア出身だが、その作風は必ずしもテクノロジー重視のハードSFではなく、社会科学の知見を踏まえたソフトSFに近い。
 見事などんでん返しの短編も収録されているが、作者の本領は登場人物の心の機微を繊細に描き出す点にある。抒情的な文体、そして人種やジェンダー、カルチャーショックなどに関する問題へのこだわりを見ると、アーシュラ・K・ル=グウィンやジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの影響を受けているように感じられる。現代SFの粋を集めた一冊である。
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 Aliette de Bodard 1982年生まれ。フランスの作家。作品は英語で発表し、英国SF協会賞などを受賞。