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「スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM」書評 大企業の市場支配、厳しく批判

評者: 石川尚文 / 朝⽇新聞掲載:2020年02月15日
スティグリッツPROGRESSIVE CAPITALISMプログレッシブキャピタリズム 著者:ジョセフEスティグリッツ 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:社会思想・政治思想

ISBN: 9784492315231
発売⽇: 2019/12/20
サイズ: 20cm/358,112p

スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM [著]ジョセフ・E・スティグリッツ

 11月の米大統領選に向けて予備選が始まった。トランプ氏に対抗する民主党は急進左派と中道的な候補が競う。本書は民主党に米国の劇的な改革を推進するよう求める立場から、経済政策のあり方を論じている。
 著者は市場での情報の非対称性の研究でノーベル経済学賞を受賞し、クリントン政権や世界銀行で公職にあった。一方で、グローバル化の弊害や金融化の行き過ぎを、早くから厳しく批判してきた。自由市場に任せれば経済はうまくいくという「信仰」の否定と、脱工業化の中で政府の介入が従来以上に必要になるとの認識が根底にある。
 したがって、たんにトランプ政権を批判するわけではない。クリントン政権も含め、共和党、民主党双方のエリートたちが唱えてきた改革が、万人を豊かにするとの約束を果たさず、成長の鈍化と格差の拡大を招いたことを指弾し、その状況の反転が必要だと説く。
 キーワードの一つが「市場支配力」だ。自由な競争が起きているというのは幻想で、「現在のアメリカ経済では、ごく少数の企業が莫大な利益を独占し、何年にもわたり支配的な地位を悠々と維持している」。
 こうした企業は、高い価格で消費者を搾取するだけでなく、労働者に対しても優位に立って賃金を引き下げる。それゆえ、格差を縮めるには、税財政による再分配以前に、市場での分配が労働者の不利にならないようにすべきだ、という。
 やや荒っぽくみえる叙述もあるが、ベストセラー教科書も書いた第一人者が、政策や大企業を容赦なく批判しつつ「進歩的資本主義」の実現を訴える姿には、深い危機感がにじむ。この論調が反トランプ陣営をまとめられるのかどうか。
 米国に比べ日本経済は成長力で劣る一方、格差は小さめだ。処方箋も当然異なるだろう。だが、グローバル化や技術の進展への対応を考える上で、本書は国を超えて深く通底する視座を示してくれている。
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 Joseph E. Stiglitz 1943年生まれ。コロンビア大教授。ノーベル経済学賞。『世界の99%を貧困にする経済』など。