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ラノベ発のスパイ・ファンタジー「スパイ教室01 《花園》のリリィ」 生徒と教官が化かし合い

 『007』に『ミッション:インポッシブル』など映画でおなじみのスパイ・アクション。近年は他のメディアでも、19世紀末を舞台に活躍する女子高生スパイを描いたスチームパンク調のアニメ『プリンセス・プリンシパル』や、凄腕(すごうで)スパイと女暗殺者、そして超能力少女のホームコメディー漫画『SPY×FAMILY』(遠藤達哉・集英社)など新作スパイものも目立つ。第32回ファンタジア大賞を受賞した竹町のデビュー作『スパイ教室01 《花園》のリリィ』は、そんな流れを汲(く)むようにして登場したライトノベル発のスパイ・ファンタジーだ。

 世界大戦がもたらした甚大な被害により各国が戦争を恐れるようになり、かわってスパイ同士による情報戦――「影の戦争」が激化した時代。小国、ディン共和国のスパイ養成学校に通う少女、コードネーム《花園》のリリィは新設されたスパイチーム「灯(ともしび)」の一員に抜擢(ばってき)される。ところが部隊に与えられた任務は成功率1割未満、死亡率9割という「不可能任務」。しかも集められたメンバーはリリィをはじめ実戦経験のない落ちこぼればかり。おまけに彼女たちの教官にしてリーダーのクラウスは、スパイとしては「世界最強」の腕前でも、教育者の適性は全くのゼロだった……。

 リリィをはじめとするヒロインたちの第一印象はスパイとしてはまだまだ未熟な年相応の少女たちだ。それもあって最初は落ちこぼれの生徒たちが変人教官のもと、下馬評を覆して大金星を挙げる感動の展開を予想した。だが、リリィは即座に任務達成は不可能と判断、作戦を中止させるべくクラウスを罠(わな)にかけ脅迫するのだ。美少女たちがえげつない謀略を企(たくら)むギャップ、そしてさらにその上を行くクラウスとの化かし合いが読みどころ。ライトノベルらしいキャラクターの魅力とスパイものならではのサスペンスが合わさって独自の魅力を生んでいる。

 まともな授業が早々に打ち切られた後、「クラウスを倒せ」という実戦形式の訓練を経て、初任務までが描かれるが、最後までどんでん返しの連続で楽しませてくれる。これ一冊でもきちんとまとまった作品だが、ヒロインたちもまだまだ掘り下げられそうだし、続刊もぜひ新たな騙(だま)しあいで楽しませてほしい。(ライター)=朝日新聞2020年2月15日掲載