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垣谷美雨「うちの子が結婚しないので」 親が婚活代行の悲喜こもごも

 もし家を買うとなったなら何軒に足を運んで比較検討するだろうか。あるいは犬を飼うとなったなら? 人生には、理想と妥協のはざまで大きな決断が迫られる時がある。なかでも結婚は、相手も人だけに難しい。

 主人公の千賀子は57歳。目下の気がかりは、28歳の一人娘・友美が結婚しそうにないこと。女性用アパレル関連の会社で残業は多め、出会いも望み薄らしく、恋人もナシ。友人からの娘の結婚報告で焦りに火がつき、夫とともに練った策が、「親婚活」の会への参加だった。

 名の通り、親が婚活を代行するそれは、子の身上書を持参した複数の親たちがまず条件などで相手を見定め、合意後、改めて子同士のお見合いを行うというもの。自立した若者ならここで、干渉しないで!と反発し、親世代VS.子世代の結婚観対立が鮮明化しそうだが、友美は素直に肯う。彼女も内心、未婚の不安を抱えていたのだ。

 しかしいざ始めれば、物事はそう簡単でない。千賀子は、要求される条件が男女で不均衡であることに憤る。女性は顔と年齢が強固な壁。はなから「嫁」にもらうという意識の親が多く、従順な母子家庭育ちの女性がいいなどと、偏見と妄想をもらす相手の男親もいる。他方、容姿など二の次の男性も、年収と職業で値踏みされる苦しみがある。「家」は重い。

 本作がフェアなのは、千賀子がばりばり働く派遣のプログラマーで、女性の経済的自立を重んじていることだ。家父長制の弊害も、女が家事担当というジェンダーロールの息苦しさも身に染みている。結婚だけが道ではないと相対化もする。それでもなお婚活に熱心なのは、ただ娘の幸せを願うからこそ。自身の結婚生活の成功から導いた最適解がたまたまこれなのだ。

 「婚活サバイバル」の悲喜こもごもがテンポよくユーモラスに描かれ、現代の結婚事情がよくわかる。最終的に人生を決めるのは娘自身という、至極まっとうな結論に救われる。=朝日新聞2020年2月22日掲載

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 新潮文庫・693円=7刷10万7千部。2019年4月刊行。読者層の約8割が女性。「切実な家庭の課題を扱う小気味よい社会派エンタメ小説で、一気読みを誘うのでは」と編集部。