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「雑多なアイデアを書き留めて可視化すると、その先が見える」 若手の注目株・Ry-laxが明かす制作の秘密

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

ラップは楽器も必要ないし、始めやすかった

 僕が本格的にラップを始めたのは高校1年から。ヒップホップMCのGOODMOODGOKUと同級生で、NEBOGANGというクルーを一緒に組んでいました。彼のお父さんは自分でDJをやっちゃうくらい音楽が大好きで、洋服屋さんも経営してて。お店はもちろん、gokuの家に遊びに行って、いろんな音楽を聴かせてもらいました。その流れで僕もやってみようと思ったんです。

 ラップのいいところは比較的簡単に始められるところ。極端な話、インストさえあればいい。gokuの家にはいろんなレコードがあったので、軽いノリでフリースタイルを始めたら、どんどんハマっていきました。北海道は他県と比べると大きいからシーンが細分化されてそうなイメージがあるけど、実際は全然そんなことなくて。THA BLUE HERB、B.I.G.JOE、NCBB(North Coast Bad Boyz)という先輩を中心にしたヒップホップのシーンが一つに固まっています。だからなんらかの形でシーンに入ると、友達や知り合い伝いにそういう先輩たちとも自然と繋がる。そういう意味でも北海道はヒップホップを始めやすい土地だと思いますね。

 「高校生RAP選手権」に出たのはTwitterで告知を見たのがきっかけ。実はそれまでMCバトルをやったことなかったんですよ。同じフリースタイルでもサイファーとバトルでは全然違う。でも番組には興味があった。そしたらgokuが「俺はちょっとバトルってタイプじゃないからRy-laxが行って様子見てきて」と言うんです。予選会場は池袋のBEDというクラブだったんですが、ノリと勢いで飛行機で東京に行っちゃったんです(笑)。そしたら予選を通過できて。その予選会場でHIYADAMとも会いました。彼も北海道出身で、しかも二人とも予選突破できたんですよ。HIYADAMと「北海道のラップはイケてるのかもね?」とか話してたのはいい思い出ですね(笑)。

「悪党の詩」/D.O(彩図社)

 そしたらある日、JASHWONさんからTwitterでDMが届いたんです。「『高校生RAP選手権』を観てすごくカッコいいと思ったから、もしもまだマネージメントする会社に所属してないなら、BCDMGに入らないか」って。JASHWONさんが日本を代表するトラックメイカーの一人なのは当然知ってたから本当にびっくりしました。だって当時の僕は、まだ本当に普通の高校生でしたからね。JASHWONさんがBCDMGに誘ってくれなかったら、僕はまだ北海道にいたと思う。

 今日持ってきたのは東京・練馬出身のラッパー・D.Oさんの自伝『悪党の詩』です。D.Oさんはギャングスタラッパーなのにバラエティ番組に出て語尾に「メーン」を付けて話したり、「ディスる」という言葉を広めた日本語ラップの超偉大な先輩。すごく有名な人だけど、実はインタビューとかも少なくて、D.Oさんがどういう人生を送ってきたかはほとんど知られてなかったんです。僕はラッパーだから、アルバム制作にまつわるエピソードや、ヒップホップにおける地元の重要性、リリックのディテール描写とユーモアのバランスみたいな話はかなり勉強になりました。

 だけど個人的に最も衝撃を受けたのは、D.Oさんが中学生時代に出会ったJASHWONさんのエピソード。D.OさんとJASHWONさんは今もマイメンで、その流れで僕もD.Oさんに何度かご挨拶させてもらいました。D.Oさんは子供の頃から波乱万丈で、中学時代は練馬でコテコテのヤンキーとケンカしまくってたみたい。JASHWONさんは転校生だったけど、当時からオシャレですぐD.Oさんと意気投合したそうです。実際、JASHWONさんは今もすごくオシャレ。しかもさりげないから余計にカッコいい。センスがヤバいんです。そういう感覚が音楽や活動にもビンビンに出てる。そういうのは、この頃から変わんないんだなって感動しました。あと今のJASHWONさんは物腰柔らかで、すごく優しい人なんですけど、当時はめちゃくちゃケンカしてたってエピソードには驚きましたね(笑)。僕がBCDMGに入ってから知り合った人たちがたくさん出てくることもあって、この『悪党の詩』は僕にとってはすごく大事な本です。

「バカとつき合うな」/堀江貴文、西野亮廣(徳間書店)

 実は僕、東京に来るまではほとんど本を読まなかったんです。でもラップをやる上でもっと自分を高めたい気持ちがあって、最近本を読み始めました。とはいえ、最初は何から読んでいいか全然わからなくて。とりあえず本屋さんに行って売れ筋の棚を適当に見てたんです。そこでこの『バカとつき合うな』を見つけました。僕はもともと西野亮廣さんが好きで。キングコングのコントもたくさん見てたし。それに絵本とかも出されてますよね? そういう型にはまらない自由な活動も面白いと思ってました。

 本の内容はタイトル通りなんですけど(笑)、とにかくいろんなタイプのバカを堀江貴文さんと西野さんが紹介しています。印象に残ったのは、西野さんが紹介していたエピソード。ある日、強風で駅前に駐めてあった自転車がすべて倒れてしまったんです。西野さんはその倒れた自転車を一台ずつ起こしてるお婆さんを見かけた。これってお婆さんの善意ですよね。でも西野的にはこの行為こそバカらしくて。なぜかっていうと、その日は風が強いからその時自転車を起こしても、絶対にまた倒れる。何度も倒れると、自転車本体にダメージは蓄積される。だったら今日みたいな日は倒したままのほうが良いでしょって。つまり「倒れた自転車を善意で起こすことは道徳的に良いこと」ってとこで思考が止まっちゃってることがバカだと言ってるんです。

 このエピソードを最初に読んだ時はかなりびっくりしたけど、まあ確かに合理的に考えると正論ではあるんです。倒れた自転車を起こすことは確かに良いことなんだけど、その風が強い日においては、必ずしも正解とは言えない。その先の思考というか、想像力。この本は僕のリリック制作に役立ちましたね。主観だけでなく、客観と、さらに俯瞰。そして想像して展開させる。ラップは一つのテーマに対して、たくさんの言葉を必要とする歌唱法なので、自分にはない目線や思考を知ることは本当に大事なんです。

「メモの魔力」/前田祐二(幻冬舎)

 僕はとにかくメモ魔なんです。リリックはもちろん、日常で思いついたこと、スケジュール。いろんなことを忘れないように書き留めます。スマホにメモすることもあるけど、基本的にはノートに書きます。この本はたまたま本屋さんで見つけて、タイトルが気になってパラパラッと立ち読みして、面白そうだから買ってみました。

 僕はこの本を読むまでなんとなくいろいろ箇条書きしてたんですね。でもこの本によると、実はみんながいろいろ書き留めていることにはファクト(事実)、抽象、転用といろんな要素がごちゃ混ぜになってるんです。それを整理して可視化すると、さらに先のアイデアが見えてくる。メモって乱雑に書いたりするものだけど、見易さを意識するだけで意外な事実に気付けたりするんですよ。抽象的に書かれていることの中から、自分にとって何が必要で、それをどう転用できるか、とか。この本の内容を説明するのはすごく難しいけど、要約すると「メモは超大事」ってこと(笑)。

 僕は音楽制作でメモをフル活用します。「今世界で流行ってる音楽がある」「その音楽はなぜ流行ってるのか」。そこから「ビートを有名なトラックメイカーが手掛けてる」「曲のテーマ」「フロウ」……みたく枝分かれして。今度はそうした分析を僕自身にどう転用するか考えます。僕はこれとこれはできてる。でもここは足りてない。じゃあ努力しようって。そうすると、次に作る曲は何をどうすればいいかが明確になる。

 僕は自分がリリシストじゃないというのはわかってるし、ケンドリック・ラマーみたいな歌詞は書けない。けど理想とするものはあって、そこに近づけるように日々試行錯誤してます。僕は一人でもしょっちゅうフリースタイルをしてるんですが、やってる時はいろんなことが頭の中を巡るんです。ひとつの言葉に対して、「どんな韻が踏めるか」「どんなストーリーにするか」「どんなフロウにするか」。0.01秒の間にそういうことが脳内を駆け巡ります。でもそういう瞬間に、ふと大事なアイデアが生まれたりすることがあって。こういうのはメモしないと忘れちゃう。僕はアイデアをちゃんと紙に書いて、視覚化することは大事だと思う。

 ちなみに今回の1stアルバム「CONTROL」に関しても、まず自分の理想とする作品像をイメージして、そこから何が足りないのか、逆に思っているけど言えてないテーマは何か、みたいなことをメモから整理してまとめていきました。一般的に1stアルバムというと、初期衝動を詰め込んだ自己紹介的作品が多いけど、「CONTROL」は今の僕の気持ちをパッケージした内容だと思う。トラックも同様です。でもこれはラッパーあるあるかもしれないけど、「CONTROL」はもう過去の作品という感じ。1曲完成させちゃうと気持ちが次に行っちゃうんです。だけど僕は単にトレンドっぽい曲をポンポン出すのではなく、毎回音楽としてのクオリティはアップデートしていきたいと思っています。だからこれからもいろんなアイデアをしっかりメモに落とし込んで、ヤバい音楽を作り続けたいですね。

Ry-lax -NEXT feat. RENE MARS【Official Video】