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知念実希人さんが思春期から惹かれ続けるサザンオールスターズ 音楽への自由な姿勢と深い愛を感じた

サザンオールスターズ「世に万葉の花が咲くなり」

 私はあまり音楽を聴く子供ではなかった。幼い時から小説の魅力に嵌まり、小学生、中学生、高校生と読書に明け暮れていたため、小遣いの大部分が本の購入へと回され、周りの友人たちのように好きなアーティストのCDを買うということをあまりしてこなかった。ただ、べつに音楽をまったく聞かないかというと、そんなことはなかった。親友の一人に熱心な音楽ファンがいて、彼がよくCDを貸してくれた。そのおかげで、B'z、CHAGE&ASKA、ZARD、GLAYなど様々なアーティストたちの素晴らしい音楽を聴くことができた。そのなかで私が特に惹かれたのは、サザンオールスターズだった。

 1992年に放映され、佐野史郎が演じる〈冬彦さん〉の強烈なキャラクターで話題になったドラマ「ずっとあなたが好きだった」。その主題歌である「涙のキッス」のイメージが強く、サザンオールスターズのイメージは、〈バラードをを歌うバンド〉だった。しかし、友人から借りたCDアルバム「世に万葉の花が咲くなり」を聴いて、自分の認識が完全に間違っていたことに気づいた。そのアルバムの中には「涙のキッス」に加え「慕情」「せつない胸に風が吹いてた」「君だけに夢をもう一度」などの美しいバラード曲も含まれていたが、私が最も衝撃を受けたのは「シュラバ★ラ★バンバ」だった。これまで聞いたどんな曲とも違う、まるで呪文のような音楽。それに圧倒されつつ、十数年の人生の中で作り上げられていた〈歌〉というものの概念が壊れていくのを感じていた。

 それから私はサザンオールスターズの楽曲に魅了されていった。CDを買う余裕はないので、サザンオールスターズの曲が流れるラジオなどで調べては、それをカセットテープに録音した。

 サザンオールスターズに対する私の印象は〈自由〉という一言に尽きる。デビュー作である「勝手にシンドバッド」のようなコミカルな曲、「TSUAMI」「いとしのエリー」「真夏の果実」のようなしっとりとしたバラード、「ミス・ブランニュー・デイ」「Bye Bye my love」のようなポップミュージック、そして「愛の言霊」「エロティカ・セブン」のようなジャンルに分けることすら無粋なような不思議な魅力を持った曲。眩暈がしそうなほどに多種多様な音楽を自由自在に生み出すバンドが私には奇蹟のように感じられた。

 桑田佳祐が歌う曲を聴くたびに、私は音楽に対する深い愛を感じる。曲を作ること、そして歌うことが好きでしょうがなく、なににも縛られることなく(もちろんそこに生みの苦しみはあっただろうが)自由に旋律を紡いできたからこそ、たくさんの名曲が生み出されてきたのだと私は思っている。

 最近ふと、私自身が自由に小説を書けているか考えることがある。以前から小説が好きだった。想像を頭の中で膨らませ、一つのストーリーとして編み上がっていくことに喜びを感じていた。しかし、デビューして仕事として執筆をするようになってから、締め切りに追われて物語を紡ぐ喜びを忘れていたような気がする。

 このエッセイを書いているうちに、私が最も好きな曲である「希望の轍」でも聴いて、いま一度、自分の原点に戻ってみたいと思った。